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お腹がいっぱいになって、三人で熱いほうじ茶をすする。
あやかしのお姉さんは食事のお礼を言うと、改めて居住まいを正した。
「申し遅れました。わたくしは八尾比丘尼のあやかしで、緋彩と申します」
緋彩さん。
綺麗な響きだな、と思わず聞き惚れる。
「やはり八尾比丘尼でしたか。見たところ、あなたはまだ半人前のあやかしのようですが……こちらの世界へやって来たのには、何か理由があるんですね?」
猫神様が聞いて、緋彩さんはこくりと頷く。
「わたくしは、ある人を捜しているのです。名前はもう思い出せないのですが……優しくて、とても素敵な男性でした」
言いながら、彼女はほんのりと頬を赤らめる。
もしかしたら、その男性というのは彼女の想い人だったのかもしれない。乙女の恥じらいを滲ませる姿が、とても奥ゆかしい。
「その方は、あなたの前世の記憶にある人、ということですね?」
「ええ、そうなりますね。わたくしがあやかしとして生まれ変わる前、わたくしはこちらの世界に生きる人間でした。もともと持病があって長くは生きられなかったのですが……そんなわたくしを、ずっとそばで支えてくださった方がいるのです」
「それが、あなたの捜してる方なんですね?」
緋彩さんはまたこくりと頷くと、今度はわずかに表情を曇らせた。
「彼にもまた、持病がありました。もともとわたくしたちが出会ったのも、病院の中で……。お互いにそう長くは生きられないことは、最初からわかっていました。ですからわたくしたちは、約束をしたのです」
「約束?」
緋彩さんは胸の前で両手を握りしめると、祈りを捧げるようにして静かに目を伏せる。
「たとえ、死がわたくしたちを分かつとしても……生まれ変わって、きっと会いにいく。どんな姿になっても、どれだけ時間がかかっても、わたくしたちはもう一度、お互いを捜し出すと約束したのです」
再びゆっくりと開かれた彼女の瞳には、強い意志の色が秘められていた。
たとえどんな運命が訪れようとも、再会を約束した二人。その絆は、きっと深いものに違いない。
「……わかりました。その方は、それだけあなたにとって大切な方なんですね」
猫神様が微笑むと、緋彩さんはまた頬を朱色に染める。
「彼は、わたくしの全てでした。あの方と出会うために、前世のわたくしはこの世に生を受けたのだと……そう思っております。ですから、こうしてわたくしがあやかしとして生まれ変わったのも、やはり彼と再会するために他ならないと思うのです」
どこまでも深い愛情で繋がっている二人。
そんな彼らなら、きっとどこかで再会できると私も思う。
「では、今すぐにでもその方を捜しに行かなあきませんね。よければ私たちにもお手伝いさせてください」
猫神様がそう申し出ると、緋彩さんは何度もお礼を言って頭を下げる。
それから私たちは、彼女が思い出せる限り、捜し人の情報を聞き出していった。



