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 錫さんの後を追う形で、私たちは映画村の中を隅々まで回った。その途中で、様々なアトラクションを体験する。

 忍者に扮したスタッフさんから手裏剣の投げ方を教わったり、隠し通路などの仕掛けが施されたカラクリ屋敷から脱出を図ったり。

 その後入ったお化け屋敷はやたらと本格的で、大人でも悲鳴を上げるほどの恐ろしさがあった。
 今は幼い子どもの体になっている犬神様には少々刺激が強かったようで、屋敷の外に出る頃には彼の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。

 そうこうしているうちに時刻は正午を回り、近くのうどん屋に入って昼食をとる。
 侍うどん、と銘打たれたうどんには唐揚げや揚げ餅などが乗っており、その真ん中に鎮座するちくわの天ぷらはミニチュアの刀の形をしていて可愛かった。

(なんだか、普通に楽しんじゃってるなぁ)

 映画村を満喫して、私は内心楽しくなってしまっていた。
 犬神様には申し訳ないなと思いつつ、今日のことは良き思い出として胸に刻んでおくことにする。

 やがてお腹も膨れて再び外に出ると、辺りは何やら騒がしかった。
 見ると、道のあちこちに妙な格好をした人々が徘徊している。

「あれは……」

 やけに大きな頭部を持つ、白装束の女性。獣のような顔をした大男。鬼のような角を持った異形のもの。

 それらはあやかし——ではなく、人間が被り物などをして妖怪に扮した姿だった。

「おや、百鬼夜行ですか。粋ですね」

 彼らを見つめながら、猫神様が言った。

「ひゃっき……?」

 私が聞き返すと、猫神様はニコニコとしながら楽しそうに説明してくれる。

「百鬼夜行は、もとはあやかしの行進です。多くのあやかしたちが群れを成して、夜の街を練り歩くんです。この映画村でも、この時期にはお馴染みのイベントとして開催されてるようですね。おそらくはハロウィンの時期と合わせてるんでしょう」

 ハロウィンと聞いて、私はなるほどと思った。
 日本式のモンスターといえば、妖怪だ。奇怪な見た目をした妖怪たちが練り歩く様は、和風のハロウィンといったところだろう。

 道行く妖怪たちは外見こそ怖いけれど、お客さんに写真をせがまれればカメラに向かってポーズを取ってくれる。

「なんだか……これだけ妖怪がたくさんいると、一人くらいあやかしが紛れちゃってもわからないかもしれませんね」

 妖怪だらけの景色を眺めながら、私は呟く。
 あやかしと妖怪の違いは、猫神様なら気配で気づけるのかもしれないけれど、私には一目で見分けるのは難しい気がする。

「そうですね。銀弥さんの狙いも、そこにあるのかもしれません」

「え?」

 どういう意味だろう、と私が聞き返そうとすると、

「錫さんが行ってしまいますね。追いかけましょう」

 言われて、私はハッと前方に目を向ける。

 道の先で、錫さんたちがどんどん遠くへ離れていく。
 このまま見失うわけにはいかない。
 私たちは慌てて足を踏み出し、彼女の背中を追った。