◯
入場口と一体になっている建物を抜けると、やがて開けた視界に飛び込んできたのは、レトロな雰囲気の漂う明治時代の風景だった。
レンガ造りの洋風の建物と、瓦屋根の和風建築とが混在する街並み。
そんな和洋折衷の景色の真ん中に、古風な路面電車が構えている。
「うわぁ……すごい。本当に昔の時代にタイムスリップしちゃったみたい」
思わず感嘆の声を漏らすと、隣から犬神様の声が飛んでくる。
「あまり余所見をしていると、あの娘を見失うぞ」
言われて、はたと思い出す。
そうだった。今はあのお姉さんを追いかけているのであって、遊んでいるわけじゃない。
ついその場の雰囲気に浮かれていた私は、苦笑いで誤魔化す。
私たちの前方を歩くお姉さんたちは和気あいあいとした様子で、写真を撮ったりして盛り上がっていた。三人とも同じくらいの年齢に見えるので、大学の同期生とかだろうか。
「あの女性は、錫さんというお名前のようですね」
猫神様が言った。
件のお姉さんは、他の二人から錫と呼ばれている。
「あのお姉さんは、やっぱり銀弥さんの前世のご家族なんでしょうか? もしそうだとしたら……曾孫さん、ということになるんでしょうか」
銀弥さんには曾孫がいる。
彼が以前口にしていたことが事実なら、その曾孫の年齢は私より少し上くらいのはずだ。
前方にいるあのお姉さん——錫さんは、おそらく私より三つか四つほど年上だろう。ちょうど年齢的にも合致する。
彼女たちは楽しそうに談笑しながら、茶屋の店先を覗いている。さらにそこから歩を進めていくと、辺りの景色は明治時代から江戸の街並みへと変化していった。
武家屋敷らしきものもあれば、暖簾のついた町家もある。さらには運河を思わせる堀割もあって、水面のそばでは柳の葉がサラサラと揺れていた。
「おや。あそこにいるのは銀弥さんではありませんか?」
不意に、猫神様が言った。
私と犬神様はほぼ同時に、猫神様の視線の先を追う。
すると、武家屋敷の屋根の上に、見覚えのある姿があった。
薄墨色の着物に、藍色の羽織を肩からかけた青年。燃えるような赤い瞳は、屋敷の前を歩く錫さんを捉えている。
「やはり来たか、銀弥……!」
犬神様がそう身構えたとき、当の銀弥さんの瞳がちらりとこちらを見た。
お互いの目が合って、私はごくりと息を呑む。
対する銀弥さんは余裕綽々の笑みを浮かべ、両手でピースサインを作ったかと思うと、次の瞬間にはドロンッと黒煙を上げて姿を消してしまった。
「……馬鹿にしてるのか!?」
ムキー! と毛を逆立てる犬神様の隣で、猫神様は相変わらず穏やかに笑っている。
「銀弥さんも、錫さんのことを気にしてましたね。やはりあの二人には何か関係があるんでしょう。銀弥さんがこの現世へやって来た理由も、もうじきわかるはずです」



