「さっきの人、ハロウィンの日に映画村って言ってましたよね」
確認のために私が言うと、他の二人はすぐに首肯する。どうやら聞き間違いではないらしい。
「さすがの銀弥さんでも、全員を口止めすることはできんかったようですね。私たちにとっては好都合ですが」
ふふふ、と笑う猫神様の腕の中で、犬神様は一人難しい顔をする。
「映画村というと、『太秦映画村』のことか。確か、あれも嵐電沿線にあったな」
そんな彼の言葉に、私は頷く。
東映太秦映画村は、ここ京都にある映画のテーマパークだ。その敷地内には時代劇の撮影に使われる江戸の街並みが広がっていて、実際に撮影するところを見学することもできる。
「映画村は、季節に合わせたイベントをたくさん開催してますからね。今の時期なら、おそらくハロウィンに関する催しもあると思います」
「じゃあ、銀弥さんもそれを見に行くってことなんでしょうか。色んな人に声をかけてるのは、みんなで一緒に楽しもうという考えで……?」
「本当にそれだけか? そんなことのためだけに、そこまでの人数を集める必要があるのか?」
うーん、と三人で唸る。
けれど、いくら考えたところで正解がわかるわけではない。
「さっきのあやかしが嘘を吐いている可能性もある。映画村のことは念頭に置きつつ、聞き込みは続けた方が良いだろうな」
その後も私たちは嵐電沿線をあちこち飛び回り、調査を続けた。
依然として銀弥さんの情報を漏らすあやかしはいなかったものの、『ハロウィン』と『映画村』という二つのキーワードをこちらが口にすれば、途端に動揺する者は少なくなかった。
「は、ハロウィン? さ、さて、何のことやら……」
「う、うちはなんも知りまへん! そないなこと言われても……」
「知らん知らん! 他を当たってくれ」
見るからにしどろもどろになるあやかしたちは、その挙動で本音を漏らしているようなものだった。
「ハロウィンの当日……十月三十一日に、映画村で何かが起こる。これだけは間違いがないようだな」
私たちの予想は確信に変わった。
けれど、もう時間がない。
銀弥さんの具体的な目的はわからないまま、ハロウィンの日はもう目前まで迫っていた。
「こうなれば、もはや直接奴を止めるしかない。ハロウィンの当日は、映画村で待ち伏せだ」
他に方法もなく、覚悟を決める犬神様。その顔にはわずかに不安の色が浮かんでいたけれど、
「大丈夫ですよ、犬神様。銀弥さんはきっと、あなたが考えてるほど怖い人ではありませんから」
猫神様はそう言って、ふふっと柔らかく笑う。
そんな彼を見ていると、私も段々とそう思えるようになっていた。
銀弥さんはきっと、怖い人じゃない。
何か大事な理由があって、この現世にやって来た——それは、今まで私が出会ってきた迷子のあやかしたちと何も変わらない。
彼にも何か未練があるのなら、どうかその思いを晴らしてほしい。
そうしてすっきりとした気持ちであちらの世界へ帰ってほしいと、私は彼の胸中に思いを馳せた。



