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翌日から、京都の街を走り回る日々が始まった。
「ぬらりひょん? いいや、ワシは会ってへんで」
「半人前のあやかし? そんなん見つけたらすぐ通報してるわ」
「あらあら、犬神様。えらい可愛らしいお姿になったはるねえ」
嵐電を利用するあやかしは、私が想像していた以上に多かった。
彼らは人間の目には姿が映らないのを良いことに、こうして日常的に公共交通機関を使って移動しているらしい。
けれど、
「くそ。これだけ多くのあやかしが集っているというのに、なぜ銀弥の目撃情報が少ないのだ!?」
犬神様は苛々した様子でぼやく。
ここ数日で、私たちはおよそ数十人のあやかしたちに聞き込みを行っていた。
にも関わらず、銀弥さんと接触したという人物は片手で数えられるほどしか見つかっていない。それもただ世間話をしただけという証言しか得られていない状況だ。
日に日に余裕を失っていく犬神様を腕に抱きながら、猫神様はいつもの穏やかな口調で言う。
「もしかしたら、皆さん口止めをされてるのかもしれませんね。私たちがこうして銀弥さんのことを探りに来ることも、銀弥さんならお見通しやったと思いますし」
「だとしても、あいつの味方をして一体なんの得がある!? この現世にいるあやかしたちは、基本的には一人前のあやかしばかりだ。半人前のあやかしの言うことなど、気にする義理もないはずだろう」
「そこはほら、ぬらりひょんの本領発揮ですよ。人の懐に入るのが上手い銀弥さんのことですから。現世のあやかしのことも、きっと味方につけるのが上手いんですよ」
ふふふ、と笑う猫神様はどこか嬉しそうで、犬神様はますます苛立ちを募らせていく。
そんな日々がしばらく続き、気づけば十月も終わりに近づいていた。
銀弥さんが幽世に帰るという十一月は、もう目と鼻の先だ。
このまま有力な情報を得ることもできずに、タイムリミットを迎えてしまうのか——と、諦めかけたそのときだった。
たった一人、おそらくは非常に口の軽いあやかしが、こんな情報を漏らしたのだ。
「銀弥なぁ。あいつの考えることはほんまに面白いからな。今度のハロウィンも、そら盛り上がるやろ。周りの奴らも当日はみーんな『映画村』に行く言うてたわ」
「……映画村、だと?」
犬神様がオウム返しに聞くと、うっかり口を滑らせた風のそのあやかしは、ニヤニヤとした顔でわざとらしく目を逸らす。
「おっと、これ以上はさすがに言われへんわ。オレは口が堅いからな。はははっ」
ほな、と手を振り去っていく彼を見送って、私たちはお互いの顔を見合わせる。



