階段に腰掛けた二人組の子ども。
抱き合うようにくっついている彼らは、どちらも山伏のような格好をしていた。その背中からは、小さな黒い翼が生えている。
やけに見覚えのあるあやかしだな——と私が思っていると、猫神様は獣の姿のまま、朗らかな声で語りかけた。
「おや。烏天狗のお二人やないですか」
烏天狗。
それも二人組の——という状況と、犬神様たちの反応を見て、私はもしやと思った。
「あれ。もしかしてこの子たち……いつも犬神様と一緒にいるあのお二人ですか?」
犬神様の部下である、二人の烏天狗。
私も過去に一度だけ会ったことがある。そのときは二人とも大人の姿だったけれど、今は犬神様と同じように子どもの姿になっている。
彼らはようやくこちらに気づいたようで、お互いの体に抱きついたまま、その幼い顔を上げた。露わになった目元は、涙に濡れて真っ赤になっている。
「い、犬神様……?」
震える声でそう呟いた直後。彼らは勢いよく立ち上がって、蹴つまずきそうになりながらこちらへ駆け寄ってきた。
「犬神様ぁ……ッ!」
泣きながら走ってくる彼らに応えるように、犬神様は猫神様の背中から飛び降りると、その小さな体で二人を抱き留めた。
「こら。お前たち、幽世で大人しくしておけと言っただろう! なぜこっちの世界に来た!?」
「だ、だって……犬神様のことが心配だったから……っ」
彼らの会話を聞いていると、私もなんとなく状況が掴めてきた。
どうやらこの烏天狗の二人も犬神様と同様に、銀弥さんに術をかけられてしまったらしい。
そうして子どもの姿になった二人を犬神様は幽世へ置いてきたみたいだけれど、二人とも犬神様の身を案じて、結局はこちらの世界へ迷い込んでしまったのだ。
「ぐすっ……。み、道はわからないし、銀弥の気配もたどれないし、術も使えないし……錫杖もどこかに落としちゃったし……。うぅ……」
もはや本物の幼子のごとく泣きじゃくる二人。その様子からは、普段の威厳など微塵も感じられない。
そんな彼らを犬神様が宥めている間に、ホームには電車が到着して、それまでイスに座って待っていたおばあさんが乗り込んでいった。
やがて走り去っていく電車を見送って、周囲に人の目がないことを確認してから、私はようやく猫神様の背中から降りた。
直後、猫神様はポンッと白煙を上げて白い青年の姿に戻る。
「なかなか泣き止みませんね」
そんな猫神様の言葉通り、烏天狗の二人はひたすら犬神様の胸の中で泣きじゃくっていた。
「……これでは役に立たん。おい猫、この二人をあっちの世界に送り帰せ」
「そうですね。さすがに私も、三人の幼子を一気に引き取るのは難しいんで」
犬神様に促されて、猫神様が烏天狗たちに近づこうとすると、
「ま、待ってください! 犬神様をここに一人残して帰るなんて、そんなこと……!」
二人はイヤイヤと首を振って、犬神様にしがみつく。
しかし犬神様は、
「心配するな。俺はそう簡単にやられたりしない。それに、今は猫もついている」
そう言って、二人の頭を優しく撫でる。
猫もついている——それはつまり、犬神様もなんだかんだで猫神様を頼りにしているということだ。
その事実に、私はちょっとだけ嬉しくなる。
烏天狗たちは未だ納得はしていなかったものの、犬神様の言うことを聞いて渋々あちらの世界へ帰ることになった。
猫神様が二人の前に跪き、その小さな手の甲にそっと口付けを落とすと、彼らは真っ白な光に包まれて静かに消えていった。



