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 翌朝。
 自宅のマンションを出ると、近くの公園にはすでに猫神様たちの姿があった。

「おはようございます、桜さん。よう眠れましたか?」

 彼はいつもの白い青年の姿で、穏やかに微笑みかけてくる。

 おかげさまで、とこちらも挨拶しようとしたそのとき。彼の腕に抱き上げられている犬神様の姿に、私は釘付けになった。

「あれ。犬神様、その格好……」

 普段は黒い束帯に身を包んでいる彼は、今は空色の甚平(じんべい)を着ていた。赤い金魚の絵があしらわれた、可愛らしい子ども用サイズ。

「いつもの格好では動きにくそうやったんで、こちらに着替えてもらいました」

「じろじろ見るな。不愉快だ」

 犬神様は大人しく抱っこされながら、ムスっとした顔でこちらを睨む。
 そのちぐはぐな態度に、私はつい頬が緩みそうになってしまった。

 今日はこれから、銀弥さんの行方を追って嵐電沿線を捜索することになっている。
 猫神様はさっそく巨大な獣の姿になると、その背中に私たちを乗せて、京都の上空へと飛び立った。

「それで、犬神様。銀弥さんの気配はたどれそうですか?」

 地上を遥か遠くに見下ろしながら、猫神様が聞いた。

「いや。悔しいが、この体ではあやかしの気配もろくに感知できん。猫、貴様は銀弥の気配を覚えていないのか?」

「ええ、残念ながら。私が銀弥さんとお会いしたんは、もう数十年前のことですから」

 数十年。それだけの長い時間をかけても、あやかしは一人前になることができない。
 それを思うと、あやかしとは改めて途方もない時間を生きる存在なのだと実感する。

「とりあえず、嵐電の辺りにいるあやかしを片っ端から当たっていこうと思います。桜さんも、それで良いですか?」

 質問されて、私はもちろん快諾する。

「では、まずはあそこの駅からですね。ホームにお二人、あやかしがいます。一気に地上へ下りますんで、しっかり掴まっといてくださいね」

 言い終えるなり、猫神様は急激に高度を下げていく。それまで遠く小さく見えていた地上の建物が、どんどんこちらへ迫ってくる。

 やがて私たちが降り立ったのは、西大路三条(にしおおじさんじょう)という駅だった。改札のない無人駅で、ホームには屋根とベンチがあり、そこにおばあさんが一人だけ腰掛けている。

 そして件のあやかしは、ホームの入り口にある四段だけの階段に座っていた。
 幼い子どもが二人。ちょうど今の犬神様と同じくらいの年代に見える。

「なんだ。銀弥はいないようだな」

 期待はずれ、といった風に溜息を吐く犬神様。しかし直後、その二人の子どもの顔を見て、彼は驚いた様子で目を見開く。

「ちょっと待て。こいつら、まさか……」