正方形のお盆の下に、台座がついた形。これに月見団子を載せて飾るイメージが私にはあった。確か雛人形の小道具にも似たようなものがあった気がする。

「そうそう! お正月には鏡餅を載せたりするやつね。『三方(さんぽう)』っていう名前らしいんやけど」

「その台がどうかしたの?」

「うん。それがさぁ……この三方、何か変やねん。何か声が聞こえるっていうか」

「声?」

 何やらただ事ではない内容に、私は眉を顰める。

「これ、去年あたしのおじいちゃんが骨董市で手に入れたんやけど。家の押入れに置いてたら、何や女の子の泣き声みたいなんが聞こえるようになったんやって。それも一回だけやなくて、何度も何度も」

 女の子の泣き声。
 誰もいないはずの押入れの中から、誰かのすすり泣く声が聞こえてくる——想像しただけで、私の背筋にはひやりと冷たいものが走る。

「……それってもしかして、幽霊か何かが取り憑いてるかもしれないってこと?」

「正体はわからへんけど……あたしには何も見えへんし聞こえへんし、もしかしたらあやかしが関係してるんかなって」

 そこまで聞いて、私はやっと合点がいった。

「そっか。それで猫神様に相談したかったんだね」

 柚葉さんが猫神様に会いたがっている理由。それは彼自身に会いたいというわけではなくて、あやかし絡みの悩みを相談したかったのだ。

「そういうこと。どう? お願いできる? 天沢さん」

 聞かれて、私はうーんと思案する。

 これが本当にあやかし絡みの案件なら、猫神様はきっと手を貸してくれるだろう。
 けれど、いま目の前にあるのはただの木製の台。ここにあやかしが取り憑いているなら私の目にも見えるはずだけれど、そんな様子もない。

 今回のことはもしかすると、あやかしとは全く関係がないのかもしれない。

(でも、猫神様だったら何とかしてくれるかも……)

 心優しい彼のことだ。たとえあやかしに関係がなくても、話してみればきっと相談に乗ってくれる。
 それに、

(私も、猫神様に会いたいしなぁ……)

 彼の穏やかな微笑みを思い出すと、できるなら今すぐにでも彼に会いに行きたいという気持ちが湧き上がってくる。
 だから、

「わかった。問題が解決するかどうかはわからないけど、一緒に猫神様のところへ行ってみよっか」

「ほんま!? ありがとう、天沢さん!」

 私の返答に、柚葉さんはぱあっと顔を綻ばせて喜ぶ。

 かくして私たちは秋晴れの空の下、猫神様のいる先斗町を目指して、京の町を進んでいくのだった。