その反応で、やっぱり、と私は確信した。

 この女性こそが、栗彦くんの捜し求めていた人だ。
 二十年前、あの大原の畦道で、一羽の傷ついた雀を救おうとした人。

「その、私……普通の人には見えないものが見えるんです。だからわかるんです。あなたが子どもの頃、一羽の雀を助けようとしてくれたこと」

 私が言うと、女性はさらに目を丸くして、わずかに眉間にシワを寄せる。

「雀って、……あのときの?」

 彼女の脳裏ではおそらく、あの日のことが思い出されているのだろう。前世の栗彦くんを手のひらに乗せて、助けを求めて走り回ったときのこと。

「そのときの雀が、今あなたのそばにいるんです。ずっと遠いところから、あなたに会うためにやってきたんです。あのとき、あなたが必死に助けようとしてくれたのが嬉しくて、その思いを伝えたくて」

 はるばる幽世からやってきた栗彦くんの気持ちを知ってほしい。
 そう思って私は訴えたけれど、彼女は、

「適当なこと言わんといてくれます?」

 冷たく、あきらかに不機嫌な声でそう言い放った。

「え……」

 ぴりっとその場に流れた気まずい空気に、私はたじろぐ。

「なんやいきなり、人には見えんもんが見えるとか言うて。大原のこととか雀のこととか、どこで情報仕入れてきたんか知らんけど、人のこと揶揄(からか)うのはやめてもらえます?」

 どうやら信じてはもらえないらしい。女性は軽蔑を含んだ鋭い視線をこちらへ向けてくる。

「確かに私は子どもの頃、怪我した雀を見つけましたよ。でも私は、あの子を助けられへんかった。そのまま死なせてしもたんや。何もできんくて、ただ泣いてるだけやった。……そんな私に、あの雀が感謝なんかしてると思います? 私は、あの子を見殺しにしたんですよ」

 強い口調で、けれどどこか苦しそうに言う彼女の瞳は、とても悲しげだった。

 見殺しにしてしまった、と彼女は言う。きっと今でも、そのときのことを後悔しているのだろう。

 栗彦くんにとっては、彼女をそんな風に捉えたことなどないはずなのに。

「あの雀は私に感謝するどころか、私を恨んでてもおかしくないんです。なんで何もしてくれへんかったんやって。なんで助けてくれへんかったんやって。……その雀が、私なんかにええ感情を抱いて会いに来るわけがないでしょう」

 彼女の強い口調は、私に対して怒っているというよりも、むしろ彼女自身を責めているように聞こえた。
 二十年前のことを、彼女は今でもずっと後悔している。

「……なぜ、わかってくれないのだ?」

 と、それまで静かだった栗彦くんが口を開いた。

「栗彦くん?」

 彼は背中の羽を広げ、私の肩を離れて、女性の顔のすぐ目の前まで飛び上がって言った。

「自分は、そなたに救われた。命こそ助からなかったが、そなたの優しい気持ちに触れて、心が救われたのだ。恨みなんてこれっぽっちもない。心から感謝している。だから……それを誇りに思ってほしい。そなたは心優しき、自分の恩人だ」

 どこまでも真摯な思いを込めて、栗彦くんは必死に訴える。
 けれど、残念ながらその声は彼女の耳には届かない——そう思っていると、

「……いま、雀の鳴き声がしたような?」

 女性はそう言って、不思議そうに辺りを見回し始めた。