もしかして——という予感が、三人の間で無言のうちに共有される。

 私は再び女性の方へ視線を戻して尋ねた。

「あ、あの。その出来事って、どれくらい前のことなんですか?」

「うん? そうやねぇ……。娘がまだ小学生の頃やったから、もう二十年くらい前になるかなぁ」

 二十年。
 ちょうど栗彦くんの記憶の時期と一致する。

 やっぱりそうだ、と私は心の中で確信した。
 この女性の言う雀というのは、前世の栗彦くんのことで間違いない。

「その娘さんは、今もこちらにいらっしゃるんですか?」

 逸る気持ちを抑えながら聞くと、女性はわずかに不思議そうな顔をしながらも、こちらの質問に答えてくれる。

「いいや。今はもう、うちにはおらへんよ。私ら親からすれば、娘にはこの店を継いでほしかったんやけどねぇ。あの子はこの店より動物の方が大事や言うて、街の方に出て獣医さんやってるわ」

「そう……なんですか」

 どうやらその人は、今はここにいないらしい。
 けれど居場所はわかっているようなので、そこへ向かえばきっと会うことができる。

「動物が好きなんは昔からやったけど……獣医になったんは、やっぱりあのときの雀のことがあったからやろうね。目の前の命を助けられへんかったのがほんまにショックで悔しかったんやと思う。傷ついた雀を手のひらに乗せて、あちこち走り回って助けを求めてたけど、知識のない私らにはどうすることもできひんかった」

 二十年前、前世の栗彦くんを助けることができず、ひどく悲しげに泣いていたという女の子。
 彼女は当時の思いを胸に刻んで、動物たちを救う道を選んだのだ。

(すごい……)

 なんて強くて立派な人なのだろう、と思う。
 前世の栗彦くんを助けようとした恩人は、やはり心優しい人だったのだ。

 彼女の勤める病院の名前をそれとなく聞き出してから、私は女性と別れた。
 そうして猫神様の顔を見上げると、

「手がかりが見つかって良かったですね」

 と、彼は穏やかな笑みを浮かべてこちらを見つめ返す。

「本当に、奇跡だと思います。まさかその人のお母さんに会えるなんて」

「栗彦さんの思いが、天に届いたんかもしれませんね」

 本当に、天が味方をしてくれたのかもしれない。それくらいに幸運なことだった。

「それじゃあ早速、その病院まで行ってみよっか。ね、栗彦くん」

 栗彦くんもきっと、その人と再会できることを喜んでいる。
 そう思って私が声をかけると、

「…………」

 彼はどこか浮かない顔で、じっと私の足元の方を見つめていた。

「……栗彦くん?」