「確かめたいこと?」

 何やら込み入った事情があるらしい。
 私がオウム返しに聞くと、栗彦くんは自らの過去について詳しく話してくれた。

「前世の自分は、この現世に生きる雀だった。あやかしではなく、普通の雀だ。人里の近くに住み、時折、田んぼに実る稲などを頂戴しながら生きていた」

 彼の前世は、雀。
 それは私も予想していたことだった。

 あやかしは、もともとこの現世で生きていた人間や動物の生まれ変わりも多い。その中でも、特に未練を残して亡くなった場合は、こうして前世の記憶を思い出すことがあるのだ。

「……ある日のことだ。自分は、天敵であるカラスに襲われてな。なんとか逃げ延びたものの、体のあちこちが駄目になってしまった。もはや自力で飛ぶこともできなくなり、あとは死を待つのみの状態となった」

 彼の口から語られたその事実に、私は胸の奥がキュッと苦しくなった。
 仕方がないこととはいえ、野生動物を取り巻く環境は厳しい。自然の中で生きていく上では、そんな危険とも常に隣り合わせなのだ。

「土の上に転がったまま、もはやこれまでかと腹を括ったときだった。ある一人の人間が、こちらに手を差し伸べたのだ。おそらくはまだ幼い子どもだったが、小さな手でこちらの体を優しく持ち上げ、何か必死に声を掛けてくれていたのを覚えている」

 瀕死の状態だった栗彦くんのことを心配して、手を差し伸べてくれた人がいる。
 その話を聞いて、私はホッと胸を撫で下ろした。

「そっか。前世の栗彦くんは、優しい人に助けてもらったんだね」

 よかったね、と続けようとした私の前で、栗彦くんはわずかに表情を曇らせて言った。

「それが……。残念ながら、自分は助からなかった。人間の子どもは、なんとかして自分を救おうとしてくれていたようだが……その努力もむなしく、自分は事切れてしまったのだ」

 そんな悲しい結末に、思わず言葉が詰まる。

 優しい心を持った人間の子どもは、一羽の傷ついた雀を助けたかった。
 けれどその願いが叶うことはなく、栗彦くんはそのまま息を引き取ってしまった。

「前世の最期に見た、あの子どもの顔……。ひどく悲しげに泣いていたあの子の姿が、今でも忘れられなくてな。きっと、目の前の命を助けられなかったことで胸を痛めていたのだろう。自分の体が回復しなかったばかりに、可哀想な思いをさせてしまった。自分は、それがずっと心残りなのだ」

 前世でカラスに傷つけられて、亡くなってしまった栗彦くん。そんな悲しい過去を持ちながらも、彼が最期に思ったのは、その子どものことだった。

「あれから、もう随分と時間が経ってしまった。あの子どもも今は大人になって、当時のことは覚えていないかもしれない。だから、忘れているならそれでいいのだ。今さら思い出す必要はない。……だが、もしもまだ覚えているとしたら。自分は、あのとき手を差し伸べてくれたことが嬉しかったのだと、せめてそれだけでも伝えたいのだ。命は助からなかったかもしれないが、自分の心は、確かに救われたのだと」