コンコン
大きな扉をノックする真理愛。
「反応ないね~」
さっきから何度かノックをするものの中から反応は一切ない。
「まあ、いっか」
そういって真理愛はドアノブを回す。
ガチャりと開く扉。
部屋に入ると大きな部屋に大きな机、ソファーとローテーブルと並んでいる。
-ここはなんの部屋だろう…
いつの間にか真理愛はソファーに座りくつろいでいる。
「疲れた…翼ちゃんも横おいで、疲れたでしょ~」
そういって手招きをして自分の隣に座れというようにソファーを手の平でボフボフする。
翼も隣座ると、体重でソファーが沈みモフモフで気持ちがいい。
正直寝そうだ…じゃなくて
「ここは何の部屋?」
そう聞くと目を半分閉じていた真理愛がふにゃふにゃした口調で口を開く。
「ここはね~御影たちの部屋だよぉ~御影はほとんどここで過ごしてるけどね~」
「”御影は”?」
「うん、今日 御影、教室いなかったでしょ?」
「ぁ、うん」
というか一緒のクラスだったんだとこの時 翼は初めて知った。
「御影は授業ほとんど出ないんだ~、【学園】来ても基本この部屋に閉じこもってるの~」
「そう…なんだ」
「はぁ~ほんとここのソファーは人をダメにするなあ~。寝ちゃいそう…」
翼はそれでいいのか…?と疑問に思う。【学園】側は何も言わないのだろうか。
生徒が授業に出ないなんて、【リアゾン】では考えられない。それを許されている御影みかげは一体何者なのか…。
真理愛はもうソファーの居心地の良さにやられている。
-ダメだ。もう半分夢の中に行っている。
緊張が解けて翼はトイレ行きたくなってきた。
「真理愛ちゃん…トイレってどこ…」
「ここ出て右に曲がって廊下を真っ直ぐ行って左だよ~」
目を瞑りながら真理愛は教えてくれた。
「ありがとう」
そういってソファーから身体を起こす。
言われた通りに右に曲がって廊下を真っ直ぐの左折、トイレがあった。
さっさと、トイレを済まし手を洗い、トイレから出る。
するとトイレを出た廊下で男子生徒とぶつかった。その衝撃で手に持っていたハンカチを落としてしまう。
「ぁ、すみません」
「ぁ、ごめん」
ハンカチを拾おうと手を伸ばした時彼もまたハンカチに手を伸ばした
翼の手と男子生徒の手が触れる。
その瞬間空気がピリついたのが分かった。
「…あんた…人間…?」
そういって男子生徒は翼の首に手を伸ばし、一気に壁際へと追いやる。
ドンッ!!!
翼の背中は壁に思いっきり叩きつけられ、首を絞められる。
「…う…っぐっ」
-苦しい…
首を絞める力はどんどん増していく。
失いそうな意識の中、男子生徒に目を向けると彼の目は赤く染まっていた。
-赤…?
その瞬間
ドガーンッという衝撃音と共に翼の首を絞めていた男子生徒が目の前から姿を消し解放された喉から一気に息を吸い込む。
「げっほ…ごっほ、」
翼はその場にへたり込む。
「おい、お前何やってんの?」
視線を上げるとそこには、茶色の髪に大きな身体の男子生徒が立っていた。
どうやら翼の首を絞めていた男子生徒はその茶色髪に蹴りを一発入れられ廊下の先に吹っ飛んでいた。
「げっほ、げっほ」
凄い力で締められていたせいでまだ喉がおかしい。吹っ飛んだ男子生徒が上半身を起こす。
「壱夜さん…」
「答えろよ、お前何やってた?」
「……えっと、」
「あ?」
「…そ、その女、人間っす!壱夜さん!人間がなんで!」
その瞬間その場の空気が変わり凍り付いた。
-バレた…?
翼の心臓もどんどん脈が早くなる。
「お前まじでそんなこと思ってんの?」
「だ…だって、匂いが…」
「あのなあ、俺らがここに人間入れるわけねーだろ。舐めてんのか」
「っひ」
壱夜が睨みを利かすと尋常じゃない怖がり方をする男子生徒。
翼も壱夜の殺気にやられ、身体の震えが止まらない。
「っち、もういい。行け」
男子生徒は身体が震えて腰を抜かしている。
「聞こえてねーのか?」
その脅しでその男子生徒はもの凄いスピードで這いずりながら廊下を走っていった。
「けっほ…」
「大丈夫か?」
壱夜が屈みこみ翼の顔を覗く。
先程の衝撃音により、なんだなんだ?と生徒達が集まってくる。
「けっほ、うん。大丈…夫、けっほ」
「翼ちゃーん!!??」
すると数人の人をかき分け真理愛が走ってくるのが見えた。
「どうしたの!?何があったの!?大丈夫!?」
慌てふためく真理愛の後ろから御影とほんのり赤毛の男が小走りでやってくる。
御影は翼の姿を見るなり少し目つきが鋭くなった。
「…真理愛」
御影がボソッと真理愛の名前を呼んだ。
それが合図となり、真理愛の目がすぅーっと赤く染まる。
「うん。翼ちゃん、ちょっと首触るね」
真理愛は翼の首に触れる。
真理愛が触ったところがじんわり温かくなり、緑色の光に包まれる。
息苦しかった喉が苦しさを緩和していく。
「これで大丈夫、ごめんね。私も一緒にいけばよかった…」
今にも泣き出してしまいそうな顔で翼を抱きしめる真理愛。
「なに?なに?」
「喧嘩?」
まだまだ集まってくる生徒達。
「クンクン」
壱夜が翼に顔を近づけ匂いを嗅ぐ。
急に近づいた壱夜にビクッと反応する翼つばさ。
「…確かに、ちょっと匂いがなあ~。本当に微かだけど…」
「なに?壱夜?」
「さっきの男、翼のこと人間だって言って手出したんだよ」
「え…そういうこと?」
真理愛は壱夜から翼に視線を変えてまたぎゅっと抱きしめてくる。
「あら~そういうことかよー、しゃーねーなあ。吸血種の中には人間が嫌いなやつもいるからな」
いつの間にか壱夜と真理愛の他に赤髪の男が翼の隣に立っていた。
赤毛の男は頭をぼりぼり掻きながら少し離れた所へと移動しおいでと手招きする。
翼は真理愛の手を借りて立ち上がり、手招きされた方へ向かう。
ーーシュッ
「うっ」
急な水しぶきの衝撃に目を瞑る。
「これで、OK~」
「わっ、愁、何それ~?」
真理愛は赤毛の男 愁が持っている小瓶に興味津々。
「ん~?人間の匂いを緩和する香水みたいなやつ~」
「へえ、また変なの作ってやんのー」
「変ってなんだよ、壱夜!役に立っただろ!」
愁は壱夜と言い合いしている中、真理愛は香水を窓から指す陽の光に当て「キラキラ~」とかなんとか言っている。本当に自由だ。
御影は翼をじーっと見つめ、寄ってくる。
そして翼の首元に顔を近づける。
「うん、もう大丈夫」
そう言って翼の頭をポンと撫で
「壱夜、愁。行くよ」
「はいはい、とその前に俺 観月愁、こいつは鴎外壱夜」
「よろしく!!」
壱夜はニコッと笑って片手を上げる。
「…よろしく」
「これから会うこと多いと思うから。あ!ちょっ御影待てよ!んじゃな、翼!っとそれと」
愁は人だかりが出来ている方に向かって言った。
「琉伽~、よろしく」
そう言い残しにこっと笑って三人はどこかに行ってしまった。
愁が声をかけた方向には人だかりの一番後ろに背の高い薄いグレーの髪が揺れるのが見えた。いつからいたかのか、気配が全くなかった。
愁の声に生徒もバッと後ろを向く。
そこには琉伽の姿があった。そこにいた全員が琉伽に釘付けになってしまう。
時間が止まったように誰もが琉伽るかから目が離せなかった。
そして翼の視界は一瞬にして真っ暗になった。


