「はあい!これが教科書ね!そしてこれが制服!」
翼の目の前の机の上には教科書だったり、日用品の類がどんどん積み重なっていく。
サラサラの髪の毛をツインテールにし、一生懸命説明する吸血種の女の子。
目をキラキラさせ、それはもう楽しそうに話す彼女の姿に翼は圧倒されながらも話を聞く。
そして翼は思う。
おかしい、全く監禁されないと…。
てっきり監禁でもされて、何なら人体実験でもされるんじゃないかと思い覚悟をして来たのに、この有り様だ。
目の前でルンルンに説明してくる彼女。
なんだか穏やかな時間が流れて、拍子抜けだ。
しかもとんでもない大きな屋敷の一室に案内され内心ドキドキしていた。
「とりあえず…これくらいかなあ。まあ後は追々って感じで!欲しいものがあれば御影に言ってね!きっと用意してくれると思うし!」
そして彼女はニコッと笑う。
可愛らしい笑顔にやはり吸血種なんだなと実感する。彼女も彼女でとても綺麗な顔立ちだったからだ。
「あ!私自己紹介まだだったね!私は真理愛と言います!よろしくね、翼ちゃん」
「…よろしく…」
「今日から御影の家で生活するんだよね!」
「…そうなの…?」
真理愛は目を開いて、大きなソファーに座ってる御影を睨む。
「ちょっとおおお!何も説明してないわけ?説明くらいしなさいよ!!」
「…うるさっ」
「なんって言ったあああ!?」
御影はプイっとそっぽを向き、真理愛の話を真剣に聞いていない。二人はずっと言い合いをしていた。
その二人のやり取りを見て仲がいいんだなあと翼は思った。
二人が言い合いをしている間に翼は部屋を見渡す。壁紙にはいくつもの花が咲き、天井には大きなシャンデリア。これは金持ちっていうレベルでは無い。金持ちの位が桁違いだ。彼の親は一体何者なのだろう。
「ああ、もううるさい。いくよ翼」
「…え」
御影は翼の手首を掴んで無理やり立たせ、部屋を出ていこうとする。
「ちょっと!荷物は!?」
机に並べられた翼の荷物はまだ片していない。
「後で、誰かに持ってくるように言って。じゃ」
「もおおお!」
ドアが閉まる瞬間、真理愛の声が部屋中に響いた。
御影は広く長い廊下を翼の手首を掴みながらどんどん歩いていく。
一体どこに連れていくつもりなんだと翼は疑問に思う。
「…あの」
「…………」
「…ねえ」
「…………」
脚を止めて御影は翼の方に振り返る。
「御影。名前、御影だから」
「…ああ、うん」
呼べとでもいうような目線を向けてくる。
「御影」
「うん、何?翼」
「…私、これからどうすれ…ばいいの?なんで連れてこられたの…」
ずっと疑問に思っていた事をようやく聞いた。
「はあ…」
大きなため息をつく御影に翼の頭にははてなが浮かぶ。
「君はこれから、【学園】に通ってもらう。まだ18歳で未成年だしね。勉学は必要だ。もちろん、吸血種が通う学校だから安心して」
そう言って彼はまた歩き出す。
【リデルガ】の学校に通うのも驚きだが翼の疑問はまだ晴れない。
「私、監禁されるんじゃないの…?」
「はぁ!?誰がそんなこと言ったの?」
「…いや、別に誰もそんな事言ってないけど…」
「ここは【リデルガ】だ、【リアゾン】じゃない。吸血種しかいない世界だ。監禁する意味も必要もないよ」
-じゃあ…
「普通に、生活していいの…?」
「そのつもりで連れてきたんだけど?」
御影はサラッとその言葉を発した。
そして、前を向きなおして廊下を歩いて行く。
ずっとずっと憧れていた。
‘‘普通‘‘に憧れて夢みてた。
こっちの世界でなら私は”普通”になれるのだろうか…。


