翌日、柚はゴオンという轟音で目が覚めた。
目が覚めたというよりは、大砲でも撃たれたような音に驚いて飛び起きて半ば腰を抜かしながら板の間の廊下を走ると、昨日通された居間に転がり込む。
「ん、起きていたのか。って、どうしたそんなに慌てて」
「い、いいいい今、ドンって!たたた大砲が!!」
「は?」
新聞を読んでいた咲真は新聞から顔を上げ、形の良い眉を僅かにひそめた。
「それより、て、敵が、、、」
そう言いかけて柚は言葉を止める。
(あれ?)
砲撃を受けたというのに、咲真は落ち着いた様子で柚を見ている。開かれた縁側からは明るい陽光が室内に差し込み、庭で戯れる小鳥達が(さえず)っていた。
「すみません、何か寝ぼけていたらしくて、、、」
「正午を告げる午砲(どん)の音だ、東京では毎日聞くからそのうち慣れる」
正午を知らせる空砲?目を擦りながら振り子時計を見る。針は丁度十二時を示している。
つまり、柚は咲真の家で正午まで爆睡していたことになる。
(本当に、、、ここは明治時代なんだ、、、)
さっき咲真が読んでいたのは明治の元号が入った新聞だった。
ここはコンビニも電車もファミレスもない明治時代。
電気は一部の商業施設や家庭に提供されている段階で、いわゆる庶民のインフラ整備などは江戸時代とあまり変わっていなかった。教科書でしか見たことがない明治時代は柚にとっては賑やかなとこというイメージしかなかったので、何度目か分からない驚きの声を上げる。
炊事洗濯は井戸水を使い、釜戸(かまど)を使ってご飯を炊き、夜になれば灯油ランプで灯りを採る。
人々の移動手段は主に徒歩か人力車か馬車。日が落ちれば洒落たガス灯がともる。
「あの、勇さんは?」
「そこだ」
咲真が指差した場所には酩酊(めいてい)し、そのまま爆睡したであろう勇が倒れていた。
「勇さん!?」
慌てて駆け寄り、頬をぺちぺち叩くと頭を抑えて起き上がった。
ちゃぶ台を見たがお盆は乗っていなかった。どうやら咲真に叩かれて気絶していた訳ではないらしい。
「娘、少し席を外した方が良い」
「え?」
「あ"ぁ"?」
「ひっ!」
今まで聞いたことない程の低い声を発する勇に驚き、柚は急いで咲真を盾にした。
咲真曰く、寝起きの凶悪は鬼でも震えて逃げるレベルなので、討伐課には寝ている勇を無理やり起こす人は誰もいない。
それから完全に目覚めた勇が咲真から状況を聞き、柚に土下座するまであと数秒。