「香夜が来たエマ〜!」
『入りなさい』
襖を開けると翡翠が姿勢が良くピーンと背筋を伸ばし座っていたので香夜も背筋を伸ばし座る。

『…………』
「今日からお世話になります、翡翠さん!」
無言の翡翠に頭を下げる香夜。

『翡翠様と呼びなさい。人間と神は身分が違うのですから…』
「は、はい!翡翠様!」


『面を上げなさい。貴女には聞きたいこと、確認すべきことがあります。まず貴女の髪や目ですが…』
「う、生まれつきです!本来は存在しないと言いたいんですよね?物心ついた時には日本にいたので日本生まれだと思います」
『……住んでいる場所は?』
「わ…わかりません」
香夜がビクッと反応したのを翡翠は見逃さなかった。

『貴女には霊力と神通力がありますね?』
「れいりょく?じんつうりき?私は人間じゃないのですか?」

香夜には意味がわからなかった。霊力は幽霊が見える霊感みたいな感じだろうか?

翡翠は本当にわからないようなので、説明をすることで香夜の反応を観察することにした。

4つの島のこと、アヤカシと番のこと、霊力のことを話したが、香夜は初めて聞くようでビックリしていた。

『最後に神通力のことですが…』

4つの島の初代神子は神の継ぐ子ゆえ、神通力が同等な事、それ以降は神子の直系子孫がいるか、神子の子孫が家系にいるなら神通力がかなり稀に現れる事、神通力があれば神獣の神子の資格があり婚姻も可能な事を説明した。
もちろん神通力があっても神獣が認めなけば神子になれない事も注意点として説明した。
数百年以上の歴史がある中で神子の子孫が家系にいる住人がほとんどだろう…つまり島の住人なら神通力を持つ者が現れてもおかしくない。


「なるほど」
話が難しいというか聞き慣れない言葉や話についていけないほどパンクしていたが、とりあえず理解したフリをした。

『最後にもう一度だけ聞きます。貴女は本当に帰る場所がないんですね?神の前で嘘を付くのは罪が重いですよ』

「本当に」「罪が重い」部分を強調し冷たい目で香夜に尋ねる。
翡翠は香夜が記憶喪失ではなく、ハッキリ覚えていると判断し、ここに住まわせるかの審判を下すためだ。神通力を持つ香夜に興味はあるが、本当に知らない事が多いのも確か。信用できない者を住まわせるほど優しくもない。

香夜はビクッし「話したら追い出したりしませんか?」
『内容次第です』

香夜は迷った末、話すことにした。香夜としては賭けみたいなものだ。

「生まれはわかりませんが、日本にいたのは間違いありません。私が住んでいたのは東京という場所です。…東京からこの北ノ島に来たようですが前後の記憶がありません!これは本当です!」

『東京…街の者でしたか』
東西南北の島の住人たちは霊力のない人間が住んでいる場所を「街」と呼ぶ。

この街からアヤカシたちが物資を運んだり、島の中にはアヤカシを介し特産物を売っている。
島の住人たちは掟により、島から出られないため外国のような遠い存在と憧れを込めて「街」と。

『ご両親も心配されているでしょう、明日にでもその東京とやらに帰りなさい。私が安全に送りますよ』

「い、嫌です!帰りたくありません!私が出来る事は何でもします!出来ないなら出来るよう努力もします!だからここに住まわせてください!お願いします!もう家には帰りたくないんです…うっ…うぅ…」

香夜は土下座をし泣きながら悲願した。

『いいえ、貴女には東京に返します。これは決定事項です』
「……そんな」


『話しは以上です。部屋に帰りなさい』
「……」
『聞こえませんでしたか?早く部屋から立ち去りなさい』

「………はい、失礼します」
願いも虚しく叶わず、呆然としフラフラしながら翡翠のいた部屋から出ていく。