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香夜が目覚めた時、そばには見知らぬ白衣の男性と和服の中年男性がいた。
会話から白衣は医者だろうということはわかったが、もう1人の男性は氷神と名乗った。
目覚めた場所をキョロキョロしていると和室だったことから家主のようだ。

「助けてくださりありがとうございます」
「……!あ、いや…体調どうかね?お腹空いてないかい?」
「はい、すっかり良くなりました。お腹は…その……」
「お粥でも用意させよう。枕元に水があるから良かったら飲んで待っていてくれ」

香夜が重い体を起こしお礼を伝えると氷神の当主は香夜の姿を見るなり、驚いていた。
そして部屋から慌てて出ていってしまった。

「この目…だよね。たぶん…」
片手で目に触れる。

出されたお粥をいただいていると不思議な男性が現れ「翡翠」と名乗った。
戸惑う香夜だが翡翠に見惚れてしまったがゆえに「一緒に来い」と言われ従うことにした。




氷神の当主から着物を渡され、着替え部屋を出ると翡翠が待っていた。
無言で歩いて行ったのだが、使用人や氷神家から外に出れば野次馬をしていた島の住人たちが香夜をジロジロ見てはヒソヒソと話していた。

泣きそうな気持ちを紛らわそうと、どこに行くのか尋ねたのだが、無言で答えてくれなかった。

下を向きながら歩いて行くと海辺に着く。

「海…綺麗!」
綺麗な砂浜に綺麗な青い海。香夜が見た海で一番綺麗な海と感じ、先ほどの住人からジロジロと嫌な目で見られ気落ちしていた気分が晴れていくようだった。


「日本にこんな綺麗な海があるんですね!」
『……4つの島は同じように美しいですよ』
「4つの島?ここは日本の離島ですか?」
『ある意味、離島ですね』

無言だった翡翠はようやく口を開いてくれたが、香夜に不信感を抱いているようだ。

「あれは鹿?」
『ええ、エゾシカとトナカイです。彼らは私の使い…従者です』
「使い?」
エゾシカとトナカイが2頭ずついた。本物を初めて見たのでなんとも言えないが「イメージしてたより大きくない?」という印象だ。

エゾシカとトナカイにソリが繋がっており、乗るようにとのことで言われたまま乗り座ると翡翠の指示で走りだした。


「えええええ━━━!!」
『うるさいですね』
「すみません。でも鹿が海を走ってるんですよ!驚きますって!」
『私の従者ですから』