駅にたどり着き、券売機の前で運賃と財布を眺めていると香夜の目の前にスッと一万円札を差し出す翡翠。

『乗るにはお金かかるんでしょう?余った分は差し上げますから食事にでも使いなさい』
「あ、ありがとうございます!」

さっそく使わせてもらう。
切符を渡すと切符や自動改札機、電車に乗れば車窓から見える景色に『ほう…面白い』とブツブツ呟いていた。
香夜には翡翠の独り言は聞き取れないものの興味深そうにウンウン言っているようにみえ、可愛らしいなと微笑ましく見ていた。
ふとポケットの水無月を見るとスヤスヤ寝ていた。


「神様もお金持ってるんですね」
『ええ。神は使い放題ですよ』
「心の底から羨ましい…」


『……………』
「………」

『で、いつ貴女のご実家に着くのですか?』
「い…いつでしょうね…アハハ……」
しばらく電車に乗り、終点で降りて終点駅を歩いていたが翡翠は不信感を抱いた。


『なるほど…貴女は帰りたくないから時間稼ぎをしていると』
図星を突かれギクッとしてしまう香夜。

「あ……えっと………その…」
焦っていると翡翠はため息をつく


『愚かな…私は帰らせていただきますよ』
「えっ!家まで送ってくれるんじゃなかったんですか!待ってください!……あ」

翡翠は香夜の声に答えることなく、姿を消してしまった。


「エマあああああっ!!翡翠様がいないエマぁああああああ!!!」
呆然としていると、先ほどまでスヤスヤ寝ていた水無月はパッと目を覚まし翡翠がいないことで絶叫していた。

「オイラ、翡翠様のお気にいりだと思ってたエマぁあああっ!!めっちゃ可愛がってくれたのにぃぃ〜捨てられたエマあああああっ!!」

香夜の周りや上空を忙しく飛び回り、少しすると満足したのか香夜の頭の上にとまる。

「香夜、喉渇いたエマ〜」
翡翠の使いで、普通のシマエナガじゃないので水なら何でもいいらしいとのことで近くの自販機でペットボトルを買い、キャップに水を注ぐと美味しそうに飲んでいた。
水を飲む姿は可愛らしくスマホが壊れてなかったら連写撮影しまくっているほどだ。

「オイラ、香夜の使いになるエマっ!翡翠様なんてもう知らないエマよ!!」
「ありがとう…水無月ちゃんがいると心強いよ」

知らない土地をしばらく歩き、大きな公園を見つけ、公園のベンチで数時間ボーッと過ごした。
あたりが暗くなった頃、水無月はキョロキョロしながら「?」と首を傾げた

「どしておウチ帰らないエマか?」
「………そだね。帰らないと…水無月ちゃん寒くない?」
「オイラは翡翠様の使いだから暑い寒いの感覚はないエマよ!翡翠さまああっ〜…」
もう知らないと言いつつ翡翠のことを思い出し目をウルウルさせる水無月。

「北ノ島ってどうやって行けばいいのかな?北ってことは北海道あたり?」
「わかんないエマ…」
ショボーンとしている水無月も可愛いがなんとか翡翠の元に返してあげたい。
行き方がわからないとどうしょうもなく、お金もない。

「とりあえず帰ってお金借りてから考えよう…」
本当は帰りたくないが、悲しそうな水無月を放っておけず重い腰をあげ立ち上がり駅方面へ向う。