『着きましたよ』

人の姿が見えない海辺のに到着したようだ。

尻尾の蛇が香夜を降ろしてくれ、水無月も一緒に付いてくる。

人がいない場所なのもあるが「ここ東京のどこだろう?」とキョロキョロしていると、翡翠(神獣)の体が白い光を発し、徐々に小さくなっていき人型になる。

「うわぁ…」
思わず、声が漏れてしまう。
翡翠は香夜が見た不思議な服装ではなく、渋めで落ち着いたような緑色の着物を美しく上品に着こなしていた。
香夜は時代劇に出てくる呉服屋の若旦那みたいと思った。

「翡翠様、格好良くて素敵で…もう私の語彙力じゃ足りないくらい美しいです!」
『ありがとうございます』
褒めても冷静な翡翠。

「エマぁ〜」
「水無月ちゃん?」
水無月は香夜の胸ポケットにスッポリ入っていった。

『では歩きますか。ご実家まで付いてきますから』
「あ、ありがとうございます。浜辺の砂、大丈夫ですか?」
『問題なく』
香夜は翡翠の草履が歩きにくかったり汚れるのを心配したが様子を見るに大丈夫そうだった。

人や車、町中がチラホラ見えるあたりまで来たが、香夜にはここが東京に見えなかった。

「本当に東京ですか?」
『ええ』

香夜のスマホは壊れてしまったので、案内板を確認した。

「えっと…東京ではなく、東京近くの県にいるみたいです。電車移動する必要ありますね…」
『電車?』
「はい。電車はご存じですか?」
『なんとなくは。電車というもの、興味ありますね』
「オイラも〜!」
翡翠は表情は変わらないのだが電車と聞き、わずかながら声が嬉しそうに聞こえた。

駅に向って歩いてる途中、翡翠は物珍しそうに「あれはなんだ?」と言わんばかりに聞いてくる。

水無月によると翡翠は好奇心旺盛だが街にはめったに行かないのでテンションが上がっているんだとか。

「街…霊力がない人間が住んでる街でしたっけ?めったにってことは来たことはあるんですか?」
『ええ。北ノ島に限らず4つの島は情報規制をしていますから島民たちの考え方も生活環境も時代遅れですから私が生活環境だけは整えるために視察に向かっていた時期がありましてね』

「情報規制?生活環境?」
『数十年前まで街では当たり前にある電気ガス水道はなく、かなり不便なものでした。電気と水だけは私の神通力で使えるようにしました。街と比べたらまだまだですがね。情報規制は島から出るのは掟により禁止されているので街に憧れる気持ちを抱かないようにですね』

4つの島はなんだか闇が深そう…と感じる香夜。