聞こえてくるのは北風の音。
 木々も、草花も凍えてしまいそうなとても冷たい夜。
 もっとも、こんな夜は星がとってもキレイに見えるのだけど。
「ただいまー! ゴメン、仕事が立て込んじゃって」
 息咳切って光一くんが帰ってきた。
「すばる寝ちゃったわよ。パパとママとドンさんといっしょにサンタさん来るの待つんだ! ってがんばってたけどね」
 私の言葉に思わず苦笑いする光一くん。
「ほら、これサンタさんへのプレゼント。お手紙とクッキー。今日いっしょに手作りしたんだ」
「わぁ、すばるカタカナ書けるようになったんだ。
 子どもの成長ってホンット早いよな……」
 少しいびつな星型のクッキーをかじりながら、光一くんが目頭を熱くする。
「ちょっと泣かないでよ光一くん、これからがサンタの出番なんだから。しっかりして!」
「悪い悪い。パパサンタも4年目になるけど、まだまだ半人前だな」
 光一くんはちょっと緊張した面持ちで、すばるの枕元にそうっとプレゼントを置いた。
 一大ミッションを終えた光一くんに、私はおつかれさまと微笑んだ。
 「はじめはどうなるかと思っちゃったよね」
 4歳になる娘のすばるから、「クリスマスにドンさんとおんなじぬいぐるみがほしい!」と頼まれた私たちは大あわて。
 私が子どものころからいっしょにいたクマのぬいぐるみのドンさん。別れた父と再会させてくれた特別な存在。いつの間にか娘の大のお気に入りにまでなるなんて。血は争えないなぁ……。
 だけど古いぬいぐるみだし、クレーンゲームで取ったものだから当然同じものを探すのは困難で。
 そんな話を父にしたら、
「それなら代わりにユニコーンのぬいぐるみがいいんじゃないか? いっかくじゅう座は冬の夜空に輝いてるんだ。きっとすばるとドンを背中に乗せて宇宙に連れてってくれるよ」
 なんて返事が返ってきた。
 こうしてすばるへのプレゼントは、おとぎ話から抜け出たようなふわふわのパステルカラーのユニコーンになった。
「さすが宇宙に行ってきただけあってロマンチックなチョイスだよなお義父さん。オレは宇宙船やユニコーンどころか、ワゴン車に優月たちを乗せることしかできないからなぁ」
 少ししょげたようにつぶやく光一くんに、
「なに言ってるの。いつも頼りにしてるよ」
 と、私は笑いかけた。
 ちょっぴり抜けてるところもあるけど、いつもあたたかくて優しいお日さまのような光一くんのことが、やっぱり私は大好き。
 光一くんは、もう一度すばるからの手紙に視線を落とす。
 「明日、目が覚めたらすばる喜んでくれるかな?」
 「うん、きっとね!」
 
 『サンタさんへ わたしはドンさんにおともだちをつくってあげたいです。パパやママやみんなといっしょにいろんなところにあそびにいきたいです。いつかおじいちゃんのいったひろいうちゅうまでとんでいって、たくさんのおともだちをつくってあげたいです。 すばる』

 しだいに北風は止み、静かなクリスマスイヴの夜空には金平糖のように小さな白い星がくるくると踊っていた。