「…」


あんなに暑かったのに
一気に体温が奪われる

冷たいだけじゃない
流れが強くて、抗うのも難しい

それでも、懸命に彼女を探す



そんな中、ふと
今、自分が思ったことに、疑問を抱いた


………冷たい?


管理人の俺は
この空間の、彼女達の影響を受ける
彼女達の感覚を、ある程度共有する

だから、それを感じたからといって
なにも不思議なことはない

さっきだって、日差しの暑さ
涼しげな空気を直に感じた


俺は彼女の影響を受けているだけで…




……。




…………………ちがう……




そうじゃないことに気づく




『これ』は



冷たさに、息苦しさに、のしかかる重圧に
痛いと、苦しいと、悲鳴を上げるこの体
この感覚は


紛れもなく




…………なんで



自分自身の「それ」を
生きていた頃に、感じていたはずのものを


彼女みたいに覚えていない

感じられなかったはずなのに



………どうして…





………!!




視界に彼女の姿を捉えた俺は
無理矢理思考を遮断して

嫌に重苦しい体を必死に動かし
激流に飲まれる彼女の手を掴み、引き寄せる


そして、そのまま
最後の力を振り絞り、岸に向かった




「っ……はぁ…はっ、……ごほ…っ!」


咳き込みながらも
なんとか荒い呼吸を落ち着かせ
腕の中で、ぐったりしている彼女を見下ろす



…………落ち着け



彼女も俺も、もう、死んでる

この感覚は
彼女が生きていた時に味わったもの

創りもの、まやかしだ
本物じゃない


彼女がここで
これが原因でどうにかなることはない


「……」


そう頭では理解していても
いざ、こうして
瀕死の状態の人間を目の当たりにすると

ぴくりともしないその姿を見ると
胸がざわついて
ないはずの心臓が嫌な音を立てる



……さっきから、なんなんだ



体は重くて、呼吸もままならなくて
視界はかすみ、頭もふらつく

ざわざわと胸に広がる
この気持ちの悪い感覚


不安か恐怖か、困惑は動揺か
あるいは、すべてか


自分の体なのに言うことを聞かない
自由に扱えない

その感覚に、もどかしさと苛立ちが募る


この場所に来てから、管理人になってから
こんなにも、自分の心に感情の波が立つことはなかった


だって、俺は
自分自身の「それ」を、ずっと忘れていたから



「………感情って
こんなに厄介なものだったっけな…」



こんなにも重くて、面倒なものを抱えて
自分は生きていたのか