いつからだろうか。いつの間にか私の中で考えが変わっていた。真っ暗な空き教室の中、無造作に置かれている椅子を見て思う。
 最初はいじめる奴をターゲットにしていた。それも知識不足の馬鹿に限定して。だけど日に日にターゲットの的は増えていった。真面目に勉強に勤しんでいる生徒。その隣で大声上げて喋っている生徒。教科書を一ページも開いてなさそうな様子で。毎日見ているそんな光景に私は思う。
 勉強しない奴に椅子なんて必要ある? むしろあなたたちが椅子になった方が勉強を頑張る子たちのためになるんじゃないの? 
 実際椅子を買うにはお金がかかる。学校の経費できっと賄っていると思うけど。でももし椅子が私の手によって増えればその経費を抑えられる。それにきっと幸せになるのではないかと思った。頭を使わない生徒にとって。
 だって椅子になれば勉強する必要なんてない。馬鹿でいても誰も咎めない。皆が幸せになれる。勉強を頑張る子もそうじゃない子も。だから、誰かを椅子にしても罪悪感なんて湧かなくなった。むしろこれこそが正義だ。教師として、この力を与えられた特別な人間として。
 私がやってきたことは間違いなんかじゃない。きっと椅子取りゲームに参加したこの五つの椅子たちは幸せなのだろう。とは言ってもあまりに多くの生徒を椅子にし過ぎると大問題になる。まぁ、五人でも十分問題だと思うけどね。あっ、間違った五つだった。
 だからこの特別タイムはクリスマスイブにだけすると決めている。私というサンタクロースから、勉強を頑張る生徒へのクリスマスプレゼントとして。そして苦痛な勉強地獄から、馬鹿な生徒を開放するためのクリスマスプレゼントとして。私はなんて幸せな贈り物を生徒たちにしているのかしら。
 そう思うと、顔から滲み出る笑みを抑えられない。おっと。いけない、いけない。
 ポケットから手袋を取り出す。どうやら手袋さえはめていれば普段誰かに触れても特別な力は発動しないらしい。わりと最初の段階でそれはわかった。
 雪のように白い手袋を両手にはめる。それは幸せを運んだサンタクロースが普通の先生に戻る瞬間だった。