「にしても、1997年の月報って…これよく調べたな」
僕の記事を読み返しながら、先輩はそうつぶやいた。
例の幸せな話が語り継がれている理由がこの記事の中にあるというのは一体どういうことだろう。
「まあ、その辺はきちんとしておかないとですからね。」
「おまえの良いところは情報収集を怠らないことだな。しかし、惜しいなあ。あと一歩でこの記事、もっと面白くなると俺は思うぞ。」
「それ、どういうことですか?さっきのもそうですけど…。」
「おまえ本当に気づいてないのか?まあ、おまえは各トピックを単体で調べてるから気づかないのも仕方ないのかもな。」
そういって先輩は僕の記事を指さした。
「まず、重要なこととして、今回の特集の怪談は2つに分けられる、ということだ。
一つはおまえがインタビューをしてまわった通り、ここ最近の怪談。で、もう一つは、北校舎取り壊し前の怪談だ。
加えて、『夢に現れる女』と『窓辺にたたずむ人影』。これらの関係性はどちらも出現場所が保健室であること。そして、どちらもたたずんでいるだけ、ということ。」
確かに、『グラウンドの住人』と『夢に現れる女』は現在進行形で出現している。一方で、『見知らぬ肖像』と『窓辺にたたずむ人影』はどちらも当時の形そのままは残っていない。
つまり、北校舎の取り壊し前後で怪談が切り替わっているのだ。
「まあ、これだけで同一の霊である、というのは時期尚早かもしれないが…。『夢に現れる女』の出現時期はわからないのか?」
「2000年以降はあまり心霊特集みたいな記事がないのでなんともいえないですね…。ただ、それ以前の記事でそういった噂は掲載されていなかったので、北校舎取り壊し後の怪談であることは確実でしょうね。」
1990年代はノストラダムスの大予言などを筆頭に、オカルトブームと言われる時期の真っ只中だったためか、うちの高校でも頻繫にそういった記事が特集されていたようだった。『見知らぬ肖像』や『窓辺にたたずむ人影』もそのうちの一貫だったのだろう。しかし、ちょうど2000年という節目の年に北校舎は取り壊され、そういった怪異も消え去ったことで、時代の流れと同様にうちの高校のオカルトブームも終息していった、という感じだろうか。
そして、北校舎取り壊しの際、もちろん保健室も南校舎、つまり現在の本校舎に移動されたことになる。もしかすると、その影響で『夢に現れる女』が出現しはじめた可能性は十分にあり得る。
「…つまり、先輩はこの怪談たちがつながってると考えているってことですか?」
「ああ。…ただ、この『見知らぬ肖像』についてはちょっと情報が少なすぎて全容はつかめないな。」
新聞部のバックナンバーを遡ったところ、これ以前にはこの手の怪談は存在しなかったようなので、うちの学校の七不思議で一番古いものであることは確かである。そのため、せっかく七不思議の特集をやるならぜひ取り上げたいと思ったのだが、最古であるが故にほとんど情報がなかった。唯一の手がかりは新聞部のバックナンバーだが、結局、あれ以上の情報は載っておらず、1999年以降はぱったりと情報がなくなっていた。残されたのは写真のみというわけだ。
すると、しばらく黙り込んで考えていた先輩が、ふいに口を開いた。
「なあ、『窓辺にたたずむ人影』ってさ、その人影の視線の範囲内で霊障が起きてたんだよな?そいつってさ、結局どこを見てたんだと思う?」
「『窓辺にたたずむ人影』の視線の先、ですか…?」
そういえば、心霊現象の原因を特定できたことに満足してそこまでは考えていなかった。
視線の先、といったら北校舎保健室の真向かいになるのだろうか。
「美術室、ですかね…」
自分で言ってハッとした。
美術室。そういえば、あの肖像も美術室に置かれていたのではなかっただろうか。
しかも、たしか美術室は『窓辺にたたずむ人影』の視線の範囲内に位置しているにも関わらず、霊障の報告が一件もなかったのだ。
「俺、絵とかはあんまり詳しくないけどさ、キャンバスを窓枠とかに見立てたモチーフって時々見かけるよな。」
もし、『見知らぬ肖像』=『窓辺にたたずむ人影』だったとすると、保健室にいた人影は女生徒、ということになる。すると『夢に現れる女』との共通点もまた一つ増えることとなる。
「てことは先輩、最後の話『花壇の目印』ももしかして…!」
「情報も部分部分合致するし、十中八九関係があるだろうな。」
こんなに違和感は沢山あったのに、何故僕は気がつかなかったんだろう。
「そして、極めつけは『グラウンドの住人』と『窓辺にたたずむ人影』だな。
…ところで、おまえ、北校舎が取り壊された理由のところ、噓ついてるだろ。」
僕の記事を読み返しながら、先輩はそうつぶやいた。
例の幸せな話が語り継がれている理由がこの記事の中にあるというのは一体どういうことだろう。
「まあ、その辺はきちんとしておかないとですからね。」
「おまえの良いところは情報収集を怠らないことだな。しかし、惜しいなあ。あと一歩でこの記事、もっと面白くなると俺は思うぞ。」
「それ、どういうことですか?さっきのもそうですけど…。」
「おまえ本当に気づいてないのか?まあ、おまえは各トピックを単体で調べてるから気づかないのも仕方ないのかもな。」
そういって先輩は僕の記事を指さした。
「まず、重要なこととして、今回の特集の怪談は2つに分けられる、ということだ。
一つはおまえがインタビューをしてまわった通り、ここ最近の怪談。で、もう一つは、北校舎取り壊し前の怪談だ。
加えて、『夢に現れる女』と『窓辺にたたずむ人影』。これらの関係性はどちらも出現場所が保健室であること。そして、どちらもたたずんでいるだけ、ということ。」
確かに、『グラウンドの住人』と『夢に現れる女』は現在進行形で出現している。一方で、『見知らぬ肖像』と『窓辺にたたずむ人影』はどちらも当時の形そのままは残っていない。
つまり、北校舎の取り壊し前後で怪談が切り替わっているのだ。
「まあ、これだけで同一の霊である、というのは時期尚早かもしれないが…。『夢に現れる女』の出現時期はわからないのか?」
「2000年以降はあまり心霊特集みたいな記事がないのでなんともいえないですね…。ただ、それ以前の記事でそういった噂は掲載されていなかったので、北校舎取り壊し後の怪談であることは確実でしょうね。」
1990年代はノストラダムスの大予言などを筆頭に、オカルトブームと言われる時期の真っ只中だったためか、うちの高校でも頻繫にそういった記事が特集されていたようだった。『見知らぬ肖像』や『窓辺にたたずむ人影』もそのうちの一貫だったのだろう。しかし、ちょうど2000年という節目の年に北校舎は取り壊され、そういった怪異も消え去ったことで、時代の流れと同様にうちの高校のオカルトブームも終息していった、という感じだろうか。
そして、北校舎取り壊しの際、もちろん保健室も南校舎、つまり現在の本校舎に移動されたことになる。もしかすると、その影響で『夢に現れる女』が出現しはじめた可能性は十分にあり得る。
「…つまり、先輩はこの怪談たちがつながってると考えているってことですか?」
「ああ。…ただ、この『見知らぬ肖像』についてはちょっと情報が少なすぎて全容はつかめないな。」
新聞部のバックナンバーを遡ったところ、これ以前にはこの手の怪談は存在しなかったようなので、うちの学校の七不思議で一番古いものであることは確かである。そのため、せっかく七不思議の特集をやるならぜひ取り上げたいと思ったのだが、最古であるが故にほとんど情報がなかった。唯一の手がかりは新聞部のバックナンバーだが、結局、あれ以上の情報は載っておらず、1999年以降はぱったりと情報がなくなっていた。残されたのは写真のみというわけだ。
すると、しばらく黙り込んで考えていた先輩が、ふいに口を開いた。
「なあ、『窓辺にたたずむ人影』ってさ、その人影の視線の範囲内で霊障が起きてたんだよな?そいつってさ、結局どこを見てたんだと思う?」
「『窓辺にたたずむ人影』の視線の先、ですか…?」
そういえば、心霊現象の原因を特定できたことに満足してそこまでは考えていなかった。
視線の先、といったら北校舎保健室の真向かいになるのだろうか。
「美術室、ですかね…」
自分で言ってハッとした。
美術室。そういえば、あの肖像も美術室に置かれていたのではなかっただろうか。
しかも、たしか美術室は『窓辺にたたずむ人影』の視線の範囲内に位置しているにも関わらず、霊障の報告が一件もなかったのだ。
「俺、絵とかはあんまり詳しくないけどさ、キャンバスを窓枠とかに見立てたモチーフって時々見かけるよな。」
もし、『見知らぬ肖像』=『窓辺にたたずむ人影』だったとすると、保健室にいた人影は女生徒、ということになる。すると『夢に現れる女』との共通点もまた一つ増えることとなる。
「てことは先輩、最後の話『花壇の目印』ももしかして…!」
「情報も部分部分合致するし、十中八九関係があるだろうな。」
こんなに違和感は沢山あったのに、何故僕は気がつかなかったんだろう。
「そして、極めつけは『グラウンドの住人』と『窓辺にたたずむ人影』だな。
…ところで、おまえ、北校舎が取り壊された理由のところ、噓ついてるだろ。」