「お前が書いた記事さ、なんか変じゃないか?」
 事の発端は先輩の一言だった。


 僕が所属する新聞部では、その月にあった行事やニュースを載せる月に一度の月報に加えて、夏と冬に1回ずつ特集記事を出していた。
 歴代の特集記事を挙げると、『この冬観たい!新聞部おすすめの映画ランキング』『あの夏をもう一度…!新聞部のなつやすみ~近所の公園編~』など。…まあ、何というか、結構自由度の高い企画である。

 そして、今年の夏の特集記事の担当に僕が抜擢されたのだった。
 順番的に2年の僕に回ってくるのは順当と言えば順当だったけれど、どちらかと言えば気が重いというのが本音だった。というのも、先ほど例を挙げたように、先輩方が書いた歴代の記事はバラエティーに富んだものが多い。
 新聞部が書いた記事なんて誰も読んでないだろ、とお思いかもしれないが、これまた先輩方の活躍によって割と、いやかなり注目度が高いのだ。
 趣味もなく、特にとりえもない、学校と家とをひたすら往復する毎日を送る僕は夏の特集のテーマを探すべく、血眼になって新聞部バックナンバーを確認した。すると、意外にも近年、オカルト系のテーマは取り上げられていないことが分かり、晴れて「七不思議特集」に決定したのが6月頭、そこからはや2ヶ月。
 夏休み終了を目前になんとか記事を書き上げ、ようやく先輩の最終確認というところまでこぎ着いたのだった。

 そして、記事を一通り読んだ先輩が言ったのが冒頭のセリフである。
 僕は内心ドキリとした。
 何故なら、そう言われるだろうと何となく予想していたからだ。
 先輩が目を止めたのは、特集最後の部分、『七不思議特集7「花壇の目印」』。

 …実を言うと、七不思議の7つ目を載せる予定はなかった。
 そもそも、七不思議というのは7つそろえてはいけない、というのが鉄則だ。
 加えて、語る側も7つ全て知ることを避けて伝えるため、人づてで広まっていくうちに少しずつ変化していき、いざ全部そろえてみたら八不思議や十不思議になっていた!…なんてこともざらである。

 しかし、7つ目が見つからなくて困っているという噂をどこからか聞きつけたのか、同じクラスの園芸部員が、「枠が余ってるならうちの部にも怪談があるんだけど、それを載せてもらえないか?」と提案してきたのだ。
 かくして、『七不思議特集7「花壇の目印」』を急遽載せることが決定した。
 …のだが、如何せん完成目前の提案だったのと、園芸部にのみ伝わる怪談ということもあり、ネタとしては少し、弱い。

 「分かってますよ~!!認めます!負けを認めます!情報も足りなければ時間も足りなかったんです!なんとかこれで通してください!!」
 僕の物凄い勢いの弁明に若干圧倒されつつも、慌てて先輩は口を開いた。
 「え!?あ、いや、そうじゃなくて!記事自体は申し分ないし、うん、よく書けてる。
 このまま夏休み明けに張り出してくれて構わないよ。」
 「……へ?」
 あっさりGOサインを出された僕は拍子抜けしてしまった。
 しかしその直後、僕の書いた記事片手に先輩はニヤリと笑う。

 「俺が変って言ったのはそこじゃないんだよ。…ところでお前、この後って暇か?」

 反射的に僕は後ずさりした。…すごく嫌な予感がする。
 「まあ、ただの雑談だ。付き合えよ」
 実は、冒頭で「気が重い」と僕が称したのにはもう一つ理由がある。

 「なあ、怪談になる条件って何だと思う?」
 この先輩は、極度の考察厨なのだ。