「というか、3年もこの学校にいてなんで七不思議の一つも知らないんですか?」
僕はさっきからずっと気になっていた疑問を投げかけた。
先輩がこの件について、一切の知識がないのは意外だったのだ。
「…いや、だってさ!?気になっちゃうだろ!?下手に首突っ込むとさ!!だから知らない方がいいと思ったんだよ!」
先ほどまで何やら考え事をしていたのか、静かだった先輩は暫し固まった後、せきを切ったように話し出した。
なるほど、あえて避けてきていたのか。そこにちょうどいいタイミングで僕は七不思議の特集を組んでしまったわけだ。
「この『霊を呼び出す儀式』だってさ!俺もやってみたいよ!」
「じゃあやったらいいじゃないですか。簡単なんだし…」
「今やっても多分、呼び出せるのは悪霊だけだからなぁ。」
若干引き気味の僕の問いかけに先輩はそう答えた。悪霊?
少し考えて、僕は気が付いた。
帰宅部の彼は偶然にもグラウンドに向かって儀式をしていた。
しかも出てきた霊について、「焼けただれて」と表現した。つまり、彼が呼び寄せたのは『呪いの焼却炉』の犠牲者だったのではないか。
そして彼曰く、『霊を呼び出す儀式』はお兄さんがいた時期にはあったということだ。
時期的に、『花壇の目印』とかぶってくるのでは…?僕は、ハッとして顔をあげた。
「7つでセットの七不思議だったってわけだ。全部出そろったな。これで極めてハッピーエンドだ。」
…事の発端は1997年に取り上げられた『見知らぬ肖像』だ。恐らく、この絵は当時保健室登校していた女生徒を向かいの美術室から描いたものだったのだろう。もしくは花壇にいるシーンを描いたものなのかもしれないが。彼女の死後、肖像のみが残され、それによって様々な噂が生じた。当時オカルトブーム真っ只中だったこともあり、その勢いに続いて『窓辺にたたずむ人影』や『呪いの焼却炉』が噂されるようになった。特に、『窓辺にたたずむ人影』については、『見知らぬ肖像』の彼女と関係性は深いと考えられる。例えば、一部の彼女について知っていた生徒からの噂が飛躍して誕生したとか、あるいは絵から抜け出した幽霊かもしれない。
その後、2000年に『呪いの焼却炉』を試した生徒によって、集団焼死事件が起こり、発端となった北校舎を丸ごと取り壊した。
しかし、北校舎にいた幽霊は北校舎があった場所にとどまり続けた。保健室という場所をつながりに夢に干渉してくる『夢に現れる女』や、集団焼死事件の犠牲者であると考えられる『グラウンドの住人』がその筆頭だろう。そういった噂は、オカルトブームが過ぎ去り、新聞部も取り上げなくなった後も、人づてでまことしやかに囁かれ続けた。
そして、転機となったのが『霊を呼び出す儀式』だ。幸か不幸か儀式が成功したことで、北校舎があった場所に残された霊は本校舎に呼び寄せられた。その中で例の肖像の彼女もこちら側へと渡ったのだろう。そこでついに完結編となったのが『花壇の目印』だったということだ。
先輩は自分の考察が無事きれいにつながって満足そうにしている。
すごい、本当に全部繋がってしまった…。
一方で僕は、はじめに先輩が言っていたことが引っかかっていた。
僕らが扱う霊はいるいないに関わらず、語られなければその実在性はなかったことになってしまう。
別に、これはただ先輩が言っただけのことだし、気にする必要はないのかもしれない。
しかし、噂の発端がどうであれ、僕が今回インタビューをした人たちは、紛れもなく幽霊をみたのだ。視えないなにかは、たしかにそこにいた、実在したのだ。
「でも、せっかくハッピーエンドでも、せっかくきれいに完結していても。…せっかくの幸せな話でも、話題性がない話は語り継がれないんでしょう?」
僕はさっきからずっと気になっていた疑問を投げかけた。
先輩がこの件について、一切の知識がないのは意外だったのだ。
「…いや、だってさ!?気になっちゃうだろ!?下手に首突っ込むとさ!!だから知らない方がいいと思ったんだよ!」
先ほどまで何やら考え事をしていたのか、静かだった先輩は暫し固まった後、せきを切ったように話し出した。
なるほど、あえて避けてきていたのか。そこにちょうどいいタイミングで僕は七不思議の特集を組んでしまったわけだ。
「この『霊を呼び出す儀式』だってさ!俺もやってみたいよ!」
「じゃあやったらいいじゃないですか。簡単なんだし…」
「今やっても多分、呼び出せるのは悪霊だけだからなぁ。」
若干引き気味の僕の問いかけに先輩はそう答えた。悪霊?
少し考えて、僕は気が付いた。
帰宅部の彼は偶然にもグラウンドに向かって儀式をしていた。
しかも出てきた霊について、「焼けただれて」と表現した。つまり、彼が呼び寄せたのは『呪いの焼却炉』の犠牲者だったのではないか。
そして彼曰く、『霊を呼び出す儀式』はお兄さんがいた時期にはあったということだ。
時期的に、『花壇の目印』とかぶってくるのでは…?僕は、ハッとして顔をあげた。
「7つでセットの七不思議だったってわけだ。全部出そろったな。これで極めてハッピーエンドだ。」
…事の発端は1997年に取り上げられた『見知らぬ肖像』だ。恐らく、この絵は当時保健室登校していた女生徒を向かいの美術室から描いたものだったのだろう。もしくは花壇にいるシーンを描いたものなのかもしれないが。彼女の死後、肖像のみが残され、それによって様々な噂が生じた。当時オカルトブーム真っ只中だったこともあり、その勢いに続いて『窓辺にたたずむ人影』や『呪いの焼却炉』が噂されるようになった。特に、『窓辺にたたずむ人影』については、『見知らぬ肖像』の彼女と関係性は深いと考えられる。例えば、一部の彼女について知っていた生徒からの噂が飛躍して誕生したとか、あるいは絵から抜け出した幽霊かもしれない。
その後、2000年に『呪いの焼却炉』を試した生徒によって、集団焼死事件が起こり、発端となった北校舎を丸ごと取り壊した。
しかし、北校舎にいた幽霊は北校舎があった場所にとどまり続けた。保健室という場所をつながりに夢に干渉してくる『夢に現れる女』や、集団焼死事件の犠牲者であると考えられる『グラウンドの住人』がその筆頭だろう。そういった噂は、オカルトブームが過ぎ去り、新聞部も取り上げなくなった後も、人づてでまことしやかに囁かれ続けた。
そして、転機となったのが『霊を呼び出す儀式』だ。幸か不幸か儀式が成功したことで、北校舎があった場所に残された霊は本校舎に呼び寄せられた。その中で例の肖像の彼女もこちら側へと渡ったのだろう。そこでついに完結編となったのが『花壇の目印』だったということだ。
先輩は自分の考察が無事きれいにつながって満足そうにしている。
すごい、本当に全部繋がってしまった…。
一方で僕は、はじめに先輩が言っていたことが引っかかっていた。
僕らが扱う霊はいるいないに関わらず、語られなければその実在性はなかったことになってしまう。
別に、これはただ先輩が言っただけのことだし、気にする必要はないのかもしれない。
しかし、噂の発端がどうであれ、僕が今回インタビューをした人たちは、紛れもなく幽霊をみたのだ。視えないなにかは、たしかにそこにいた、実在したのだ。
「でも、せっかくハッピーエンドでも、せっかくきれいに完結していても。…せっかくの幸せな話でも、話題性がない話は語り継がれないんでしょう?」