「石井先生に釘をさされたんですよ…。」

 ばれてしまったのならしょうがない。仕方なく、先輩には打ち明けることにした。

 「な…、なんでわざわざ先生に聞き込みしたんだ…??」
 「そりゃ、噂話ならともかく、事件のことを聞くなら先生に聞くのが一番信頼性高いですし。ソースはちゃんとしとかないと。勝手なことかいて噓を広めるのもよくないですし。」

 というのもあるが、それ以上に驚くほどに情報が残っていないのだ。例の月報を見つけたのも偶然だった。当時も自主回収したようだったので、何かあるというのは明白だ。しかし、焼却炉すら残っていない今、直接情報を聞くことができるのは先生のみであるという状況。載せるにしても載せないにしても、ひとまず先生に聞くという選択肢しかなかった。

 「おまえ…。なんというか、ほんとにまじめだなぁ。…でも、何故石井?石井って2年の授業持ってないだろ?」

 さらなる問題はうちの顧問は一昨年入った新任だったため、事件のことを全く知らなかったことである。
 よくよく考えたら、この件は20年以上も前の出来事なのだ。当然、聞ける先生も限られてくるに決まっている。その点をすっかり見落としていた。
 しかも、夏休みはとにかく先生がいないのだ。みんな部活などで出払っており、職員室に誰もいないなんてこともざらにあった。
 そして、ようやく捕まえることのできたのが石井先生だったというわけだ。

 「石井もたしか一昨年移動で入ってきたやつだった気がするんだけど…。ってか石井、自分は幽霊みたいな顔色して実は幽霊とか苦手だったのか…。」
 「なんてこと言うんですか、先輩。」

 とはいえ、先生のおかげでなんとなく全容はつかめた。
 月報にもあった通り、とある生徒が『呪いの焼却炉』の噂を実行したのだろう。その結果、例の集団焼死事件が発生した。実際火事が起こったのかは不明だが、噂は瞬く間に広がっていき、収拾がつかなくなった。そこで、石井先生の言うところの「きれいさっぱりなくしてしまう」という結論に至ったのだろう。
 そう考えると、2000年以降、極端にオカルト系のネタを取り扱わなくなったのも納得がいく。

 「惜しいな、せっかく面白そうなネタなのに…。」
 横でうなだれている先輩をみて、こういう人がいるから石井先生はああやってわざわざ圧をかけてきたんだなぁと、しみじみ理解した。

 「はぁ…。でもこれで合点がいった。『グラウンドの住人』と『窓辺にたたずむ人影』の関係性。北校舎があった場所に出る幽霊と、北校舎にいた幽霊。そしてグラウンドに様々出る幽霊は『呪いの焼却炉』の犠牲者だった、ってわけだ。」

 そういえば、『グラウンドの住人』の報告が多かった野球部・サッカー部はちょうど北校舎が立っていた場所を使っていた。一方、報告数が少なかった陸上部は同じグラウンドでも北校舎跡地ではなく、元々グラウンドだったところを使っていたため、難を逃れていたのだろう。

 「それが理由で北校舎の取り壊し理由を疑ってたんですか?」
 僕は少し驚いてしまった。てっきり事件のことを知っていたから指摘してきたのかと思ったのだ。だからきれいさっぱり調べたことを白状したのに。

 「いや、火事の件は知ってたよ。
 …なんでだっけな、昔ちょっと調べてた時期があったんだよ」