拝啓、やがて星になる君へ

 帰宅後、庭の二つの星塚の前に立ち、ぼんやりとそれを見下ろした。かつて大好きな家族だったそれは、今日も物言わず、ただ静かに冷たく、並んでいる。

 空は皮肉めいた快晴で、傾きかけた太陽が(だいだい)色の光を大地に振りまいている。春の涼やかな風が吹き、辺り一面の若草を()でて通り過ぎていく。波のように揺れる草葉が陽光を乱反射して、キラキラと(きら)めく。

 きっと今、この光景はとても優しく、美しいものなんだろう。だけど僕はそれを楽しめない。周りが鮮やかに輝くほど、自分の中の傷や影が強さを増して、(みじ)めさが際立っていくように感じて、目を塞いでしまいたくなる。

 「ねえ」

 二人はもうどこにもいない。ここにあるのは、母と、姉の、抜け殻のようなもの。それは分かってる。でもいつも、声に出して呼びかけてしまう。

 「星になるって、どんな気分なの」

 答えはない。ただ風だけが吹いている。

 「どうして、僕じゃなかったんだろう」

 どうして、僕だけが生きてるんだろう。

 後ろ向きで、悲観的で、生きることが下手な僕なんかより、優しい母さんや元気で明るい姉さんが生きていた方がいいのに。

 僕も星になれば、こんな(むな)しい気持ちになることもないのに。

 ため息を(こぼ)しても、星塚は何も語らない。

 ただ、風だけが吹いている。