拝啓、やがて星になる君へ

 夜、いつものように祖父と二人で夕飯を食べていると、祖父が言った。

 「勇輝、高校は、どうだ?」

 「別に、普通だよ。昨日も同じ話をしたよね」

 顔を上げずに、箸で煮魚の小骨を取り分けながら答える。

 「今日はどんなことをしたんだ?」

 「学校でやることって勉強以外にないでしょ」

 「友達は、できたか?」

 「……今食事中だよね。静かに食べたいんだけど」

 「あ、ああ、ごめんな。じいちゃん、勇輝とお話ししたくてな」

 祖父の表情は見ていないけれど、こちらの顔色を窺うような声音に、少し(いら)々(いら)した。同時にそんな自分にも、苛立ちを感じてしまう。

 「話し相手がほしいんなら、近所の公民館にでも行くといいんじゃない。年の近い人もいっぱいいると思うよ」

 「そうか、そうだよな、ははは……」

 「ごちそうさまでした」

 食べ終えた食器を重ね、流しに運び、洗う。三年ほど前、母が星化症で動けなくなった頃から、食事は祖父が作り、洗い物は僕がやるという分担になり、それが今も継続している。

 祖父が小さくため息をつく声が、僕の耳に届いた。僕だって、祖父が嫌いなわけじゃない。小さな頃は沢山遊んでもらったし、優しくて、大好きなじいちゃんだった。

 でも、もう七十も中盤を過ぎて、体の具合もよくないらしく、ちょくちょく病院に通っている。人生何があるか分からないから確証はないけれど、僕より先にじいちゃんが死んでしまうことは、僕が先になることよりもよほど可能性の高いことだ。

 それなら、自分を残して死んでいく人に思い入れなんて持たない方がいいだろう。繋がりが大きいほど、大好きになってしまうほど、大切に想えば想うほど、いつか必ず訪れる別れの痛みが増していく。失ったものは二度と戻らないし、心に開いた穴は(ふさ)がることはない。

 だから、最初から、僕は何も持たない。

 誰も好きにならない。誰も大切に想わない。

 そうすれば、耐えがたい離別の痛みに打ちのめされることもない。

 十二歳の時に姉を、その翌年に母を、星化症が無情に奪っていってから、僕は世界と自分の接点を極限まで小さくすることで、自分の心を守ることを決めた。

 誰とも関わらない。誰とも繋がらない。それなら傷付くこともない。

 この残酷な世界に、独りで立っている限り、僕は無敵なんだ。