拝啓、やがて星になる君へ

 文化祭二日目、夏美が心配で気が気ではなかったけれど、登校すると図書室に彼女の姿を見つけ、ひとまずほっとする。彼女の着物の左肘は、穴の開いた箇所を隠すように縫い直されていた。

 二日目も盛況は変わらず、沢山余るだろうと見込んでいた三百部の部誌も、夕方には全てなくなってしまった。

 「こうなるともうなんの部活だか分かんねえな。看板を〈立体アート部〉に書き換えるか?」と八津谷が冗談交じりに言う。

 「あ、見てください、これ!」

 花部さんがスマホの画面を僕たちに向けた。SNSのアプリ画面に、僕らの展示や部誌の写真がいくつも載っている。

 『うちの高校の文芸部、クオリティ高くてびびった』

 『今文化祭中なんだけど、うちに文芸部あるの知らんかったわ。タダで冊子もらってきた。表紙かっこいいな』

 『文芸部の冊子、泣けるしハラハラするし笑えるし、普通に面白くて草』

 『書生さん衣装かわいいー 図書室要チェックだよ 私も入部しようかなー』

 部員四人の集合写真まで載っている。さすがに顔はスタンプで隠されているけれど。

 「なんだこりゃあ、こんなことになってたのか」と八津谷が驚く。

 「どうりでお客さんが多いと思いました。SNSで口コミが広がってたんですね」

 「これならアンケートの結果も期待持てるんじゃねえか? 部費ボーナス出たら来年の夏休みは温泉旅館で合宿やろうぜ。なあ、風間!」

 八津谷に声をかけられた夏美は、驚いたように体をびくんと震わせた。

 「……あ、うん、そうだね。みんなが頑張ったからだよ」

 「なんだよ、話聞いてなかったのか?」

 夏美の様子のおかしさに、八津谷と花部さんが顔を見合わせる。花部さんが心配そうに訊いた。

 「夏美ちゃん、なんだか調子悪そうですけど、どこかつらいんですか?」

 「うーん、張り切ってちょっと疲れちゃったのかな、あはは。ごめん、ちょっと保健室で休んでくるね」

 そう言うと扉に向かい歩き出した。昨日のことがどうしても気になり、僕は声をかける。

 「夏美、付き添おうか……?」

 「ううん、平気。勇輝はここでしっかり、お客さんに文芸部をアピールしてて」

 振り返りもせずにそう言って、部屋を出ていく。

 彼女は、無理をしている。それくらい、いくら人付き合いに疎い僕でも分かる。でも、本当に具合が悪いのなら、僕がそばにいたところでなんの役に立つだろうか。

 保健室には専門家の養護教諭がいる。適切な処置をしてくれる。だから、大丈夫だ。少し休んだら元気になって、太陽みたいな笑顔と、呆れるくらいの行動力で、また文芸部を、……僕を、色んな所に引っ張り回してくれる。

 何度も自分にそう言い聞かせて、無力な自分を覆い尽くそうとする冷たい不安を、なんとか振り払う。