拝啓、やがて星になる君へ

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 そして、文化祭当日がやってきた。

 一般客への開門は十時からで、生徒は朝六時から登校して準備をしていいことになっている。僕は展示の組み立てもあるので、大きな荷物を持って六時に学校へ向かった。

 「お、星乃も来たか」

 「おはようございます、星乃くん」

 図書室の扉を開けると、八津谷と花部さんが制服姿で既に準備を進めていた。

 「おはよう、二人とも早いね」

 「部長も来てるぜ? お前が一番最後だ」

 ちょうどその時図書準備室の扉が開き、文芸部衣装として用意した大正時代の着物を纏った夏美が出てきた。

 「おはよ、勇輝!」と、いつもの元気な笑みで言う。

 「おはよ……って、もう衣装着てるの? 早くない?」

 着物は動きにくいので、展示の設置が終わってから、女子、男子の順で図書準備室を更衣室代わりにして着付けする予定だった。

 「えへへ、家から着てきた方が気分上がると思って。私の展示はもう終わってるから大丈夫だよ」

 見ると確かに、夏美の担当である入り口から一番遠い位置の角は、もう展示が済んでいるようだった。物語の舞台である百年後の未来の街が、電飾付きでジオラマのように表現されて、その中央には『ご自由にお取りください』と書かれたカードと並んで部誌が平積みされている。

 八津谷が作業の手を止めて言った。

 「それにしても風間がSFミステリとか、ちょっと意外だったよな。なんかもっとキラキラしたもん書いてくると勝手に思ってたわ。感動系とか」

 「ふっふっふ、私の本当の物語は部誌のページに収まりきらないのさ。そのうちみんながわんわん泣いちゃうような感動の文章を読ませてあげるよ」

 「お、言ったな? 俺はちょっとやそっとじゃ泣かねえぜ? 楽しみにしとくわ」

 「首を長くして待っててね! あ、あとね勇輝、ほらこれ、見てよ!」

 夏美は右手に持っていた一枚の板を掲げた。一メートルほどの幅のダンボール板の上に、原稿用紙を拡大したようなデザインの紙が貼りつけられていて、そこに流麗な筆文字で『休憩室 & 文芸部展示 お気軽にどうぞ』と書かれている。

 「麻友が言ってた『原稿用紙デザインを使いたい』ってのを岩崎先生に伝えたら、用意してくれたんだ。文字は慶介が書いてくれたよ」

 「おう、いい出来だろ? 書道部からスカウトされちまうかもなあ」

 花部さんもそばに来て興奮気味に言う。

 「あたしもさっき見ましたけど、おっきい原稿用紙がとってもかわいいですよね。文芸部っぽさも出てます!」

 「慶介、後で入り口に飾ってもらっていいかな」

 「オッケー」

 みんなが自分の作業に戻るのを見て、僕も準備を始める。

 この図書室は、部屋の半分から奥側に本棚が並んでいて、手前側にテーブルとイスが設置されている。テーブルエリアが文化祭中の休憩スペースになり、その四隅を文芸部が使うことになっていた。入り口から見て右奥が八津谷、左奥が夏美、左手前が花部さんで、入り口から入ってすぐの右側手前のエリア、つまり来場者の視界に最初に入る場所が、僕の担当になっている。

 まずは、事前に借りておいた脚立に乗って、流星群を仕込んだ夜空の綿を天井からテグスで()るした。文化祭開催期間の二日間LEDライトを点けっぱなしでも問題ないように電池を設置してある。

 次に、海を表現したダンボール板をテーブルの上に乗せて、ずれたり落ちたりしないように両面テープで固定。

 そして、分解して運んできたザトウクジラのパーツを組み合わせていく。幸い移動中にも破損はなく、イメージ通りに組み上がった。これもまた天井から伸ばしたテグスで、海を割って悠然と飛び上がる姿になるように空中に固定する。最後に海の周りに、手に取りやすいように部誌を並べた。

 「おお、すっげ、気合入ってんなあ星乃! マジで美術部かよって感じだ!」

 様子を見に来た八津谷が言った。夏美と花部さんもそれに続く。

 「うんうん、すごいよ。今回の部誌の表紙にもなってるから、この展示も含めて目玉作品だよね。だからこの位置を勇輝にお願いしたんだし、休憩室目当てで来たお客さんの視線をがっつり集められると思うよ」

 「あたし、星乃くんの原稿をPCに打ち込んでる時、泣いちゃったんですよ……。これを見たら、思い出してまた泣けてきちゃいました」

 「えっと、その……ありがとう」

 素直に褒められると、なんて言っていいか分からなくなる。八津谷が頭をガシガシとやる時は、こんな気分だったのだろうか。