部活時間はこれまで通り、読んだ本について話し合ったり、宿題を消化したり、お菓子をつまみつつ雑談をしたり。そして解散した後は自分の部屋で、展示のための工作に耽る日々が続いた。
図書館で借りたクジラの図鑑を開き、ブリーチングをするザトウクジラの写真を見ながら、針金でクジラの胴体やヒレの形を作り、その上に和紙を貼っていく。
小さいとつまらないから、部屋を訪れた人の目を奪うような迫力ある大きさにしたい。けれど大きく作りすぎると持ち運びができないから、パーツごとに分割して作って、最終的に図書室で組み立てられるようにする必要がある。色を付ける時は庭に出てスプレーを吹きかけた。
ダンボール板の上に紙粘土を盛って、形状を整え、海の波のようにしていく。海面を割って飛び上がるザトウクジラの、豪快な水しぶきを表現するために、試行錯誤と失敗を何度も重ねた。材料が足りなくなって、一人で再度ホームセンターに行った日もある。
海の色には、暮れかけの群青。グラデーションするようにマリンブルー。そして白波のホワイト。クジラの体色を入れても寒色に偏りがちだったので、あの夏の日の波打ち際で見た、鮮烈な夕焼けのルビーレッドを差し色にして光の道を表現した。この後に作る空の色と矛盾するけれど、あの時にみんなで見た、夕陽に煌めく海面を割ってクジラが跳び上がる光景が目に焼き付いているから、譲れない色だった。
海とクジラができたら、次は空だ。綿を広げて、濃紺と黒でグラデーションするように色を付けていく。綿の中に電池ボックスを仕込んで、銅線を繋いだLEDチップをいくつも飛び出させた。
空には、星を降らせたかった。文芸部のみんなで松陵ヶ丘に登って、見晴らし台に寝転んで見上げた、ペルセウス座流星群。物語の中でも大事な要素にしているあの流れ星を、図書室の一角に再現したかった。
LEDチップをそのまま発光させるだけでは、ただ光が点として浮かぶだけだ。だから、チップの周りを半透明の樹脂粘土で包んで、細長く伸ばして流星の軌道を作った。試しに電池ボックスのスイッチをオンにすると、LEDチップの光が樹脂内で分散して、点だった光が線として引き延ばされ、流星の軌道の先端が激しく燃えるように強く輝いた。
「……できた」
思い出したように息を吐き出して、額に浮かんだ汗を拭った。
長かったけれど、過ぎてみればあっという間だったようにも思う。そう感じるのは、きっと僕がこの工作に熱中する日々を、とても楽しんでいたからだろう。
小説を書いている時も、こうして物語の場面を形にしている時も思っていた。自分の手で何かを作り上げるというのは、なんて楽しいんだろう。
例えそれが小さな輝きだとしても、一つの価値が世界に生み出されるというのは、ちっぽけで無意味だと思っていた自分の中に、わずかだけれど確かな、生きる意味のような力が宿るように感じられるんだ。
図書館で借りたクジラの図鑑を開き、ブリーチングをするザトウクジラの写真を見ながら、針金でクジラの胴体やヒレの形を作り、その上に和紙を貼っていく。
小さいとつまらないから、部屋を訪れた人の目を奪うような迫力ある大きさにしたい。けれど大きく作りすぎると持ち運びができないから、パーツごとに分割して作って、最終的に図書室で組み立てられるようにする必要がある。色を付ける時は庭に出てスプレーを吹きかけた。
ダンボール板の上に紙粘土を盛って、形状を整え、海の波のようにしていく。海面を割って飛び上がるザトウクジラの、豪快な水しぶきを表現するために、試行錯誤と失敗を何度も重ねた。材料が足りなくなって、一人で再度ホームセンターに行った日もある。
海の色には、暮れかけの群青。グラデーションするようにマリンブルー。そして白波のホワイト。クジラの体色を入れても寒色に偏りがちだったので、あの夏の日の波打ち際で見た、鮮烈な夕焼けのルビーレッドを差し色にして光の道を表現した。この後に作る空の色と矛盾するけれど、あの時にみんなで見た、夕陽に煌めく海面を割ってクジラが跳び上がる光景が目に焼き付いているから、譲れない色だった。
海とクジラができたら、次は空だ。綿を広げて、濃紺と黒でグラデーションするように色を付けていく。綿の中に電池ボックスを仕込んで、銅線を繋いだLEDチップをいくつも飛び出させた。
空には、星を降らせたかった。文芸部のみんなで松陵ヶ丘に登って、見晴らし台に寝転んで見上げた、ペルセウス座流星群。物語の中でも大事な要素にしているあの流れ星を、図書室の一角に再現したかった。
LEDチップをそのまま発光させるだけでは、ただ光が点として浮かぶだけだ。だから、チップの周りを半透明の樹脂粘土で包んで、細長く伸ばして流星の軌道を作った。試しに電池ボックスのスイッチをオンにすると、LEDチップの光が樹脂内で分散して、点だった光が線として引き延ばされ、流星の軌道の先端が激しく燃えるように強く輝いた。
「……できた」
思い出したように息を吐き出して、額に浮かんだ汗を拭った。
長かったけれど、過ぎてみればあっという間だったようにも思う。そう感じるのは、きっと僕がこの工作に熱中する日々を、とても楽しんでいたからだろう。
小説を書いている時も、こうして物語の場面を形にしている時も思っていた。自分の手で何かを作り上げるというのは、なんて楽しいんだろう。
例えそれが小さな輝きだとしても、一つの価値が世界に生み出されるというのは、ちっぽけで無意味だと思っていた自分の中に、わずかだけれど確かな、生きる意味のような力が宿るように感じられるんだ。
