拝啓、やがて星になる君へ

 海辺の町に住む主人公の少年が、足を骨折して入院した病院で、一人の少女と出逢う。退屈な入院生活の中で二人は打ち解け合い、毎日のように病院の屋上で待ち合わせては、いくつもの言葉を交わした。少女はクジラの図鑑をいつも大事そうに持っていて、中でもザトウクジラが力強く海上に飛び上がる姿が大好きだという。いつか自分もザトウクジラになりたいと熱く語る少女の横顔を、少年は笑って見つめる。

 自分と会うたびに嬉しそうな笑顔を見せてくれる少女に、少年は次第に()かれていく。でも、今の穏やかな関係が心地よくて、終わってしまうのが怖くて、苦しい想いは胸の内に秘めることを決める。

 ある夏の日の夜、少年と少女は病室を抜け出して、いつもの屋上に出る。その日は澄んだ星空がどこまでも広がっていた。

 少女は星空の下で、ザトウクジラはオスがメスにラブソングを歌うのだと話し、「私に歌を歌ってよ」と少年に願う。その言葉に込められた意味を理解しつつも、少年は照れと戸惑いから「二人が退院したら」とはぐらかしてしまう。少女は嬉しそうに「約束だよ」と、少年と指切りをした。

 その時、二人の頭上に流れ星が走って消える。少女は少年に、流れ星に願い事を言うと叶うんだよ、と、まるで世界の秘密をそっと分け合うように教える。「早く退院できるようにお願いすればよかったな」と。

 その後、少女の病状が急速に悪化していく。やがて少年の怪我は治り退院したが、その日の夜に少女が病室から(こつ)(ぜん)と姿を消し、行方不明になったと知らされる。

 誰もが少女の死を(ほの)めかす中、少年は一人、星空の下で交わした約束を信じて、少女を捜し続ける。そして、少女の消失からちょうど三年が経った夏の日。その日は、ペルセウス座流星群の極大日だった。

 少年は、かつて少女がそっと教えてくれた世界の秘密を思い出す。

 流れ星に願い事を言うと叶うんだよ。

 そして少年は、広い空が見えるように浜辺まで歩き、一人暗い空を見上げた。

 夜空を翔ける幾千の星に、少年は願う。そして――