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 一人、自室の学習机に向かい、原稿用紙に文字を書き込んでいく。

 静かな夏の夜。どこか遠くで風鈴が鳴り、風に乗って部屋に吹き込み、僕の肌を撫でていく。その優しい風に、鉛筆が紙の上を走る音が混じっていく。

 夏。海。白波。

 クジラ。空。雲。

 流星群。風。祈り。

 出会い。約束。別れ。

 これまで文芸部に――風間さんに、あちこち連れ回されて見た光景や、話した内容や、感じたことが、自分の中に積み重なって、柔らかな輝きを放っているのを感じる。

 物語になる前の、沢山の想いの欠片(かけら)たち。それらが体の内側で煌めきながら、繋がり合いたいと(うず)いている。僕はその断片をそっと拾い上げ、鉛筆で紙の上に並べて、言葉を使って紡いでいく。

 いくつもの想いや記憶が繋がり、物語になっていく。

 それは、生きることにも似ていると、僕は感じた。