体育館に集まって退屈な話を聞かされた後、再び教室に戻ると、自己紹介の時間になった。担任の男性教師が出席番号順に名前を呼び、呼ばれた生徒は教壇の前に立って、名前と、趣味や抱負なんかを簡単に話して、席に戻っていく。

 「次は、(ほし)()くん、お願いします」

 「はい」

 自分の名前を呼ばれ、僕は立ち上がる。教壇の前に移動して視線を上げても、クラスメイトの顔は見ないようにする。みな、同じ顔。全員が無関係な他人。

 小さく息を吸って、自分の名前を名乗った。

 「星乃(ゆう)()です。趣味は――」

 その時、教室の中央でガタンと派手な音がして、一人の女子生徒が勢いよく立ち上がった。

 「見つけた!」

 その女子が発した大声に、部屋がしんと静まり返る。教室中の視線が彼女に注がれ、それに気付いた彼女は顔を真っ赤にし、ゆっくりと椅子に腰を下ろして言った。

 「ご、ごめんなさい……どうぞ、続けて」

 周りからクスクスと笑いが起こる。恥ずかしそうに照れ笑いをする彼女の、ボーイッシュなショートボブの黒髪が揺れた。大きな目と、(きゃ)(しゃ)な鼻。白く透き通るような肌に、紅潮した頬。彼女を中心にして、見ないようにしていた教室の精度が上がっていく。

 「星乃くん、続けて」

 担任の声で我に返った。

 「あ、えっと、星乃勇輝、趣味は読書です。短い間ですが、よろしくお願いします」

 小さく頭を下げて、自席に戻る。ざわついた心を静めて、自分と世界との(つな)がりを薄めていく。初めから何も持たなければ、失うこともないんだ。