拝啓、やがて星になる君へ

 祖父と、母と、僕。三人で囲う食卓は静かで、ここにいない人のことばかりを、どうしたって意識してしまう。僕が何か気の利いたことを言って空気を和ませることができたらいいのだけれど、この口は姉のようには(りゅう)(ちょう)に動いてくれない。

 僕は、姉と最後に交わした約束を、何度も思い返していた。

 (私がやれなかったこと、勇輝はいっぱいやってね。勉強したり、部活したり、友達と遊んだり、誰かと恋をしたり、お母さんに親孝行したり……私の代わりに、いっぱい、やってね)

 あの時姉は、泣いていた。真夏の太陽みたいに、こっちが疲れるくらいに笑ってばかりいたあの人が、その時は、顔を歪ませて、声を震わせて、泣いていたんだ。だから僕は、姉が生きるはずだった時間を託された僕は、その約束を、果たさなくちゃいけない。

 箸を置いて、祖父と母の顔を順番に見て、僕は声を出す。

 「あのさ、学校が、もうすぐ夏休みに入るんだ。そしたら、母さんもちょっと休み取って、三人で旅行に行こうよ。遠くなくていいから、じいちゃんに車を運転してもらって、どこか、海にでも」

 二人は驚いたように目を見開いて僕を見た。

 「勇輝がそんなこと言うなんて、珍しいわね。何かあったの?」

 「いや、別に……。ただ、ここのところ家の中の空気が暗いし、母さんも仕事で疲れてるみたいだし、気分転換するのもいいかな、って、思って……」

 母は優しく笑った。

 「そうね。ありがとう。勇輝が優しい子に育ってくれて母さん嬉しいわ」

 その笑顔が嬉しくて、でもなんだか無性に照れくさくて、顔が熱くなるのをごまかすように、みそ汁を啜った。

 「じいちゃんはいつでもオッケーだぞ。楽しみだな。どこに行こうか。ガイドブックを買ってこないとな」

 「そんなに張り切らなくていいから……」

 「でも、いいの?」

 母の質問に首を傾げる。

 「え、なにが?」

 「中学生っていうと、親と一緒にどこか行くのを嫌がる年頃かと思ってたけど」

 「……そういうの、もう古いから」

 「あら、そうなの? ふふふ」

 恥ずかしさで耳まで赤くなっていく気がしたので、夕食の残りをかき込んだ。

 「ごちそうさま」

 そして食器を流しに置き、自室に逃げ込んだ。

 少し、胸の中が温かかった。