拝啓、やがて星になる君へ

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 放課後、新設された文芸部の部員四名は、昨日と同様に僕の机を囲うように集合した。

 「なんで僕の席に集まるのさ」

 「だってそうしないと星乃くんさっさと帰っちゃうんだもん」

 口を(とが)らせてそう言った風間さんは、すぐに笑顔に切り替えた。

 「朝も言ったけど、昨日は無事に手続き完了して、文芸部が創設されました! はい拍手!」

 パチパチとうるさい風間さん。花部さんは手を(たた)く動作はしているが周りの生徒に遠慮してかほぼ無音だ。八津谷はおざなりに二回だけ鳴らし、僕は窓の外の景色を見ていた。

 「……まあ部員の団結は今後の課題にして、生まれたて文芸部の記念すべき第一回の活動として、議題があります。何についてか分かるかな、星乃くん?」

 「分かりません」

 「考えるフリくらいはしてよ! えっとね、文芸部ってどんな活動するかをちょっと調べてきたんだけど、ただ本を読むだけじゃなくて、お気に入りの作品を持ち寄ってその魅力を共有したり、自分たちで詩や小説を書いたりもするんだ。学校によっては本格的な公募に出すところもあるみたいだけど、私たちがいきなりそれをやろうとするとハードル高すぎるから、まずは秋の文化祭に冊子を出すことを目標にしようと思ってます」

 「へえ、意外とちゃんと考えてんだな」と八津谷が言うと、

 「そうだよお、私部長だし、この文芸部に人生を(ささ)げようと思ってるからね!」

 「す、すごい覚悟ですね……」花部さんが感心する。

 確かに、この人が文芸部を創ることにかける行動力には、不思議に思うほどの情熱を感じる。なんせ、非協力的な僕を、結局こうして部員にしてしまうほどだ。

 「そこで!」

 ビシリと右手の人差し指を立てた彼女は、僕を真っ直ぐに見つめた。その視線から逃げるように顔を背ける。

 「部員が集まって話し合える場所が必要なんだけど、昨日も言ったように残念ながら部室に使えるような空き教室はありません。さあ、どうしよう?」

 「ここでいいんじゃねえの?」

 八津谷は自分の足元を指さしながら言った。風間さんが答える。

 「教室だと放課後でも生徒が残ってるし、ちょっと騒がしいよね。読んだ本の感想会とか、冊子のテーマの相談とかは、静かな場所でやりたいな」

 「あ、じゃあ、図書室はどうですか……? 静かだと思うし、図書室で活動してる文芸部もあるらしいですよ」と花部さん。

 「確かに図書室は静かだし本も沢山あっていいんだけど、逆に私たちが活動することで、周りの利用者の迷惑になっちゃうと思うんだよねぇ」

 「そっか……」

 「じゃあどうすんだよ?」

 少し苛立っているような八津谷の声にも臆することなく、風間さんは続ける。

 「昨日、創部の手続きする時に(いわ)(さき)先生に訊いたんだけど」

 岩崎先生は国語の教師で、文芸部の顧問を引き受けてくれたと風間さんから今朝説明を受けていた。

 「部室は必ずしも校内じゃなくてもいいみたい。移動に危険が伴わない距離で、管理者の許可が取れれば、校外の、例えば部員の家とかで活動しても問題ないんだって。ただその場合、顧問が顔を出すことはないと思ってください、って」

 「ふうん。まあ部活の顧問って教師からしたら完全にサービス残業らしいから、かえってその方が教師にとっても都合がいいのかもしれねえな」

 「うん、文芸部の活動的にも、いつでも顧問が必要って内容じゃないしね。で、ここからが本題なんだけど……」

 八津谷の方を向いていた風間さんが、にこやかな表情で再度僕を見た。

 「星乃くんの家って、本がいっぱいありそうだよね!」

 「お断りだよ」

 「まだ何も言ってないじゃん! でも、自分ちが部室って楽しそうじゃない? 放課後に友達が集まってワイワイやるような雰囲気で。しかも解散した後はゼロ秒で帰宅できるという特権付き!」

 勘弁してくれ。ただでさえ嫌々参加している部活なのに、自宅まで侵食されてたまるか。絶対に断ると僕は心に決める。が――

 「実は、岩崎先生経由で星乃くんちの住所を入手済みだから、これからみんなで実地見学に行こう! 徒歩十分くらいみたいだし」
 「は? ちょっと待って」

 こちらの意見などお構いなしに、風間さんは教室の出口に向かってずんずんと歩き出した。

 「ハハハ、強権政治かよ、さすが部長サマだ」と笑いながら八津谷もついていく。花部さんまで、こちらをちらりと窺った後、小走りで彼らの後を追った。

 僕は盛大にため息を吐き出す。個人情報の扱いについて、後で顧問に文句を言わなくては。