エリーはブルネットで、緩くカールした長い髪をいつも後ろで一つに束ねている、地味なタイプだった。こんな彼女は特に、私の毒舌の標的となりやすい。
去り際、私はエリーに向かってさらに暴言を吐いた。
「お前も、鬱陶しく家に篭ってばかりいないで、死んだ母親を見習ったらどうだ? 着飾って派手な化粧をして億万長者にすり寄ればいい。そうしてさっさと出て行くがいいさ。今のお前は、私の慈悲でここに住んでいるだけなんだ」
そうして玄関を出て行く私に、エリーは何も言い返してこなかったし、私も彼女を振り返らなかった。
私の父──ウィリアム・E・ボストンは、私がかつてそうだったような、大阿呆だった。
息子に二世を名乗らせるほどの阿呆だというだけで、大概は理解出来るだろう。傲慢で自己中心的で、取り柄といえば金儲けの才だけの男だった。
何をどう勘違いしたのか、己をカサノバだとでも思い込んでいたのだろう、私の母という妻がいながら、古今東西、上は熟女から下は学生まで実に幅広いバラエティーの女性たちを、妾や愛人として囲っていた。
そんなだったから当然、私の母はずいぶんと早くに夭折し、続いて再婚したのが、愛人たちの中で最も美しかったエリーの母だったという訳だ。
おまけにその数年後、別荘地へ向かう自家用小型ジェット機を運転中、雪山に衝突して新妻と共に事故死だ。
実にお粗末な人生の終焉だった。
後に残ったのは、私と、新妻の連れ子だったエリーと、莫大な遺産だ。
しかし私は、父のことを笑えない。
父以上に「お粗末な人生の終焉」 を、迎えるところだったのだ。──いや、半分は迎えていた、といえるだろう。詳しくは以下の通りである。