嫉妬に狂った男の目から見ても、ジョン・クラークソンは誠実で真面目な男だった。

 医師という堅実な仕事を持ち、穏やかで頼りになる上に、独身である。特に目立った容姿ではないが、均衡の取れた中背をしており、人好きのする童顔を持っていた。

 私はこの男のあら探しをしたが、見つかったのは精々、私の方が美男子だったとか、私の方が資産があったとか、その程度の過去との比較でしかなかった。

 ──負けを認めるのは容易ではなく、私は人間として男としてクラークソンに勝てないのが分かると、エリーを引き合いに出し始めた。

 エリーが会いに来ているのは私だ、と。
 エリーは私に会いに来ている。クラークソンはただ幸運にもここで働いているだけで、「ついで」に過ぎないのだと……。

 しかし欺瞞(ぎまん)は欺瞞でしかない。
 真実が現実をあざむくことはなく──私は、次第にありのままの実態を受け入れざるを得なくなっていった。

「エリー」
 と、彼女の名を呼ぶ。
 私ではない。これはクラークソンだ。

「君が好きなんだ……。僕のことを真剣に考えてくれないだろうか」
 エリーは答えない。
 しかしクラークソンは畳み掛けるように続けた。
「分かっている。君は兄上のことが好きなんだろう。それをどうこう言うつもりじゃないんだ……君は立派なことをしていると思うし、そんな君を尊敬している。しかし、今君を抱きしめられるのは僕だ。僕だけなんだよ」

 するとエリーは、うな垂れるように視線を床に落とした。
 しかし、クラークソンがエリーの肩を掴むと、顔を上げて彼を見つめ返す。

「急がなくていい。でも、僕は真剣だ。考えておいて欲しいんだ」
 クラークソンの台詞に、エリーは、色よい返事こそしなかったものの、断りもしなかった。


 長い冬だった。
 長く寒々しい冬だった。
 長く苦しい、灰色をした、荒涼の冬枯れ。

 私の想いは、また凍土に埋まってゆく。そうして、氷の心でもって、すべてを忘れてゆくのだろうか。
 エリー……私の義妹。
 重い黒縁めがねの、小枝のように細い、私の義妹……。