エリーは真面目で、加えて信心深いタイプでもあったから、少なくとも私の知る限り、異性との交遊はあまりなかった。パーティーへ参加することさえ稀だったくらいだ。

 重い黒縁めがねに代表される彼女の身持ちの固さは、同年代の少年たちからは敬遠されていたことだろう。
 しかし、この頃になると、エリーは眼鏡をコンタクトに変えていた。
 細いばかりだった身体も、ゆっくりと丸みを帯びていき、少女から女への見事な開花を見せていたのだ。

 ──私が以前の容姿のままだったならば、彼女の変化を喜びと共に受け入れたはずだ。

 この期に及んで自惚れるのも馬鹿馬鹿しいが、私はエリーの隣に立ってなに一つ見劣りしない美貌を誇っていたのだ。
 その上、始末の悪いことに、過去の栄光は私にプライドを植え付けていた。

 エリーに相応しいのは私だ。
 私の方が、クラークソンより彼女に相応しい。
 そんな事を、干からびた顔と身体でもって、考えていた。笑止千万とはこのことだろう。

 あの日を境にジョン・クラークソン医師は、エリーが私の病室へ訪れるたび、必ず顔を見せに来た。

 他愛のない世間話をいくらかした後、
「僕に出来ることがあれば、遠慮なく相談してくれ」
 と頼もしいことを言い残して、仕事へ戻る。
 するとエリーは、
「優しい人ね」
 とか、
「こんな先生が付いていてくれて、良かったわ」
 といった賛辞を、ポツリと口にするのだった。

 私の前で。

 これが、どれだけ悔しかったか、誰に想像できるだろう……。

 私は叫び出したい気分だった。
 今すぐこの窮屈なベッドを飛び起き、のびたスパゲッティのようにぶら下がった鬱陶しい栄養剤のチューブをもぎ取って、エリーの前に立つ。
 私はエリーに触れ、彼女に愛を告白し、全ては過去のものとなるだろう。

 そんな夢を見た。

 しかし現実は残酷で、悲惨で、情けないものでしかありえない……私は相変わらず、ベッドの上で呼吸を繰り返すだけの物体で、立ち上がることはおろか、声を出すことも叶わなかったのだ。

 毎日のように繰り返されるエリーとクラークソンの温かい会話を聞きながら、彼らが日に日に親しくなっていく様子を見ている……。

 その間にも、エリーはますます美しくなっていく。
 そんな彼女にクラークソンが惹かれているのは、間違いなかった。