冬はつとめて。
 雪の降りたるはいふべきにもあらず──『枕草子』 清少納言





 季節が冬へと移り変わるころ、私のエリーへの想いは確かなものへとなっていた。

 私は夢を見ていたのだろうか? 覚めながらの夢を。
 誰が証明できるわけでもない私の想いは、しかし、ただ息をするだけの植物となった私の身体に、確かに宿っていたのだ。

 エリーが私を訪ねに来るたび、私の胸は確かに高鳴っていた。


 (うつつ)の夢を漂いながら、それでも私の想いは日に日に深まる……。

 私は、身体の自由を失ってはじめて、心の自由を知ったような気がした。意識のある間中、私は柄にもなくエリーへの愛を歌っていたのだ。

「ウィルってば、時々とても幸せそうな顔をするのね。そんな風に見えることがある気がするの」

 そうだ……そうだよ、私は幸せだ。
 君は毎日私の所へ来る。
 私はもう必死になってテニスボールの後を追う必要も、金にまつわる処々の面倒に追われる必要もなくなっていた。
 ただ君を待っている。君の声を待っている。
 君の手が私の手に触れる瞬間を、待っている。

 もちろん、そんな安穏な幸せはそう長く続かなかった。
 やがて季節が巡り、本格的な冬が始まり出すころ、私の真の苦しみが始まったのだ。

 私は単なる植物であり、人ではないのだと思い知る時が──エリーの傍に、「生きた」男が現れたことで、私は自覚していった。