当時、私は自分の姿を見ることが出来なかったから自覚のしようがなかったが、私の容姿は醜く変貌しはじめていたのだ。
筋肉という筋肉が衰弱し、かつて隆々さを誇っていた二の腕や胸板や足は、骨に皮が付いただけの惨めなものへと変わり果てていた。顔色も冴えなく、頬はこけ、状態も褒められたものではなかったらしい。
急にエリーが昔話を始めたり、泣き出したりしたのは、そのせいらしかった。
精悍なミケランジェロの彫刻は、今や人生の終焉を迎えようとする老人のようになり、四六時中チューブに繋がれ、己の糞の世話さえ出来ない有り様へと転落していたのだ。
涙の一つや二つも出るだろう。
特に、エリーのように優しい娘は。
弁護士やマスコミ……私を守るために方々へ出る羽目になったお陰で、人目に触れることが多くなったエリーは、それに合わせて自然と美しくなり、大人の女らしさを身に付けていった。
元々彼女の母親は、美しさで私の父を手に入れたようなもので、その血を引くエリーは当然、輝かんばかりの美貌を持ち……それを重い黒縁めがねの奥に隠してきていたのだ。
日々、美しく変容していく義妹に、私は懸想した。
彼女の優しさに触れ、その声に癒され、その言葉に励まされ、私は……生まれてはじめての恋をしたのだ。
可笑しいだろうか。
私は死んだも同然の身だった。
呼吸以外の何をするわけでもなく、植物となった私が、初めて人を愛した。
「ウィル、外の木々が綺麗に紅葉しているわ」
そうかい、でも、美しくなったのは君だ。
「近くに素敵なレストランが出来たの。目が覚めたら一緒に行きたいな。ウィルの舌に合うかどうかは、分からないけど……」
かまうものか。今の私は、君が望むなら、雑草だって食べるさ。
「空を見て……見慣れない鳥が飛んでる。渡り鳥かしらね」
そうだ、鳥が飛んでいる。
私にも見えるよ。