夏はよる。
月の頃はさらなり── 『枕草子』 清少納言
*
これは私の手記であり、ある救いの記録であり、一人の馬鹿な男がいくつかの真実を学んでいく過程の物語である。
私の名前はウィリアム・エドワード・ボストン二世。
誰もがその名から想像するような容姿と、性格と、雰囲気と、財産を持っている男だった。
すなわち、流れるダークブロンドの髪に飾られた逞しい長身、彫りの深い端正な顔に浮かぶ氷のような濃青の瞳──ミケランジェロの彫刻がいつのまにか息を吹き返し、高級ブランドのスーツを着崩しながら、アメリカ東部でフェラーリを乗り回している様を想像するといい。
それが私だった。そう、私はアメリカ人でもある。
私には全てがあった。
貪欲な人間が手に入れたいと思う全てのものが、私にはあった。
両親が残した膨大な財産、恵まれた容姿、若さ、誰もがうらやむ名声、群がる女たち。そのどれもが今の私にはなく、また、取り返したいとも思わない。
今の私にあるのは、もっと平凡なもので、そう珍しくはないはずだ。
これは、私がその「平凡なもの」 を手に入れる物語である。それで宜しければ読み進んでいただこう。
そう、始める前にもう一つ……。
これは何よりも、私と彼女のラブストーリーであることを記しておこうか。
月の頃はさらなり── 『枕草子』 清少納言
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これは私の手記であり、ある救いの記録であり、一人の馬鹿な男がいくつかの真実を学んでいく過程の物語である。
私の名前はウィリアム・エドワード・ボストン二世。
誰もがその名から想像するような容姿と、性格と、雰囲気と、財産を持っている男だった。
すなわち、流れるダークブロンドの髪に飾られた逞しい長身、彫りの深い端正な顔に浮かぶ氷のような濃青の瞳──ミケランジェロの彫刻がいつのまにか息を吹き返し、高級ブランドのスーツを着崩しながら、アメリカ東部でフェラーリを乗り回している様を想像するといい。
それが私だった。そう、私はアメリカ人でもある。
私には全てがあった。
貪欲な人間が手に入れたいと思う全てのものが、私にはあった。
両親が残した膨大な財産、恵まれた容姿、若さ、誰もがうらやむ名声、群がる女たち。そのどれもが今の私にはなく、また、取り返したいとも思わない。
今の私にあるのは、もっと平凡なもので、そう珍しくはないはずだ。
これは、私がその「平凡なもの」 を手に入れる物語である。それで宜しければ読み進んでいただこう。
そう、始める前にもう一つ……。
これは何よりも、私と彼女のラブストーリーであることを記しておこうか。