秩父悪霊払い殺人事件の被害者は十二名の死亡者と、一名の負傷者である。
唯一の生き残りであるY氏は現在無期懲役囚として千葉刑務所に収監中。そのY氏に面会を申し込んだ。

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は? 誰ですか、アンタ。
殺霊会について調べてる……って何で今さら。もう事件は十年以上前じゃないですか。

自分が殺霊会に入ることになったキッカケは――交通事故です。
ええ、トラックの運転手をやっていたんですけど、事故で子供を一人轢いてしまったんです。その子は死にました。
子供が飛び出してきたんで、こっちには非がなかったんですけど……でもまあ、殺したことに変わりはないじゃないですか。
それから何となく、精神的なものなのか体調を崩して、死んだ子の祟りなのかなって思うようになって。
そうこうしているうちに、殺霊会と巡り会った感じです。
どこにでもいそうな普通のガキだな。Mに初めて会った時はそう思いました。
でも、何だろうな……。声質なのかな。言うことに、妙な説得力があるんですよね。
Mから「大丈夫」って声を掛けられた時は、大人げなく泣きじゃくりました。救われた気がしたんです。
殺霊会にいたのは、俺の他にもそういう奴らばっかりだったんじゃないかな。

それでも、当時の自分があんなガキの言いなりになって人を殺したなんて、今では信じられないですよ。
俺は被害者でもあるけど、加害者側でもありますから。
事件時の心境については、はっきりとは覚えていません。
本当に悪霊が憑りついていると思って他人に暴力を振るったのか、それとも自分が標的になりたくなかったからなのか。
実際、信者の中には他人を殴るのを躊躇った奴もいましたよ。
そうするとMは、「をんりょうに取り憑かれている証左だ」って言いがかりをつけてくるんです。指名されたらもう終わり。
次の標的にされてしまう。
霊を殺すためには、憑りついた相手を言葉通り殺してしまうのがてっとり早いんですよ。
だから、次々に仲間たちは殺されていった――。

異様でしたね。思い出したくもない。
報道では暴行を加えたって表現に留められていますけど、実際はもっと惨かったですよ。
「殺霊」を殴る際に使うのは、自分の拳じゃないんです。――ええ、死体です。
殺霊が終わった――つまりは息絶えた後、遺体はバラバラに解体されます。
で、他の部分は燃やすんですけど、両腕だけは残すんです。
その腕で、殺霊する相手を殴らなくちゃいけなくて。思い出すだけでゾッとしますよ。
次々に人はいなくなっていくのに、対照的に腕だけは増えていくんです。
だから、俺が殺霊の標的にされた時には、全部で二十四本の腕があの家にはありましたね。
もちろん、最初のほうに殺された――それこそMのお母さんの腕とかは、既にかなり腐敗していましたけど。

Mですか? 
今はどうしているんでしょう。普通なら死刑なんだろうけど、アイツが送られたのは少年院でしたよね。
ってことは、もう外に出ているのか……。
また新しく殺霊会を復興させている可能性? まあ、ゼロではないですよね。
霊を怖れる誰かの恐怖心をコントロールするのが、誰よりも長けていましたから。
もしかしたら、その無理心中の事件の生き残りの子を殺霊会に入信させたのかもしれませんね。
母親に取り憑かれたと思い込んで、彼女はその男を誘拐して、そして――。
残念ですけど、行方不明になった男はたぶんもう死んでいますよ。殺霊されたはずです。