君と出会った日

それは君の笑顔みたいに眩しい太陽が照らしてくれていた日

春風に乗って現れた僕たちの輝く日々

でもそれは長くは続かなかった

愛していたよ

離れていてもずっと君を想うよ

だから愛する君よ、幸せになってしまえ



 春風が気持ちいい春。
 僕はゆっくりと足を進めていた。桜の花びらが舞って桜の道が出来ている。何だか特別な気分になり胸が高鳴る。すると
「宙!」
と後ろから元気な声。振り向くと予想通りの人物が走ってこちらに向かって来ている。
「おはよう!宙!」
「おはよう、朝陽。相変わらず元気だな」
 当たり前だろ〜と隣で自慢気に話すのは友達の朝陽だ。彼とは入学してすぐに意気投合し今では何でも話せる親友のような存在だ。しかし
「やばい。今日って小テストある日じゃね!?でも小テストか…なら勉強しなくてもいける…?」
…こんな事はあまり言いたくはないが天才的にアホである。
「そ、宙〜助けてくれるよなっ?」
「やらなかったお前が悪い」
 そんな〜と肩を落とす彼を横目に僕は歩みを進める。朝から騒がしくて疲れないんだろうか…なんて思っていると校門に入っていく1人の女子を見つけた。
「…友達より可愛い彼女に釘付けになってるぞ。」
 と、すかさず横から朝陽がぼやく。
 僕が釘付けになっている女子の正体は彼女の瑠々だ。太陽に反射する綺麗な髪に明るい性格。僕には勿体ないほどの人物だ。すると、瑠々がこちらに気づき手を振っている。
「可愛いよなぁ瑠々ちゃん。いいなぁお前はあんなに可愛い彼女がいてよぉ。」
「羨ましいのか?」
といい気分になったので少し煽ってみると
「んだよ!ずりいぞ!」
「まぁお前も瑠々とお似合いにはなると思うけど、少なくとも僕がいる間は瑠々は俺のだから。僕になにかあったときは...お前に頼むわ...」
「嫌そうにすんな。てかいなくなんなよな。」
「そうだな。」
「...さっさと行ってこいよ!」
 結局そう朝陽に言われお言葉に甘えて瑠々の元へ走る。朝陽には後でしっかり小テストの範囲を教えてやろう…
「おはよう、瑠々」
「おはよう、宙!」
 と満面の笑みの瑠々。笑った顔もやっぱり可愛い。気づかないうちに瑠々の顔を眺めてしまっていたのか瑠々は不思議そうな顔でこちらを見ている。
「どうしたの?」
 僕は慌てて
「何でもないよ!行こうか。」
と言う。そして、いつもと同じように教室に行く。同じことをする毎日でもこんなにも楽しく感じるのは瑠々のおかげだ。
 廊下を2人で歩いていると
「ねぇ宙、こんな噂知ってる?」
と瑠々が珍しく噂話をしてくれた。何でもどれだけ離れた2人でも想い合っていればまた再会出来るという噂だそうだ。
 僕からすると離れることが無いのが1番なのだがもしもの時にと頭の片隅に入れておく。
 そして今日も同じように授業を受けて一緒に帰る。
 そんな日常がこれからも繰り返されるはずだった。

ー放課後ー

 僕は廊下を小走りしていた。なぜなら瑠々と一緒に帰る約束をしていたからだ。
 だが、あれもこれもと委員会の仕事を頼まれてしまい大幅に時間に遅れてしまったのだ。一応メッセージは送ったものの既読がつかない。
 最近委員会が活発になり遅れたり断ったりすることが増えてきてしまっている。そのせいなのか、誘われる事も少なくなってしまった。しかし今日は久しぶりに一緒に帰ろうと誘ってくれたのだ。だからこそ一緒に帰りたかったのだが…
「いない…か…。」
 玄関に彼女の姿は無かった。1人で帰っているとメッセージが届いた。
『勝手に帰っちゃってごめんね。忙しそうだから誘うのはしばらく控えるね!』
 その瞬間僕は大きな後悔に襲われた。どんな気持ちで待ってくれていたのか。最低な事をしてしまった。すぐに
『全然大丈夫だよ。こちらこそ本当にごめんね。』
と送り返したが返事は来ない。今すぐにでも会って謝罪をしたかった。だが辺りはもう真っ暗で遅い時間だったため、帰りに便箋とお菓子をいくつか買って帰った。
 家に帰宅し、やることを済ませ手紙を書いた。今僕が思っていること、やっていたこと、言い訳にしか聞こえないかもしれないけれど全て書いた。
 書き終わってすぐに意識が遠のくほどには集中していたらしい。その後僕はすぐに夢の世界へと落ちていった。

ー翌日ー

 瑠々と話す機会を伺って一日行動していたが、結局話すことが出来ず帰りのホームルームになってしまった。一日を通して目も合わずに終わった。彼女なりの気遣いなのかそれともただ避けられているのかは分からない。
 それでも今日は一緒に帰りたかった。今までのことの謝罪もあるし何より一緒にいたかったからだ。しかし今の状態でどのように誘うべきか…と考えていると
「宙!」
となんと瑠々から話しかけられたのだ。これはチャンスかとすかさず
「瑠々、今日一緒に帰れない?」
と誘った。しかし
「あぁ…ごめん、今日は他の友達と約束してて…」
と言われてしまった。仕方ないか…と落胆していると
「じゃあ、また明日ね!」
とそそくさと行ってしまった。彼女が行ってしまい悲しさと自分への憤りを感じた。溢れてくるのは後悔ばかりだ。学校にいてもしょうがないためそのまま1人で家へと帰ることにし、家路につく。
帰りながらも頭にあるのは瑠々のことばかりだった。考えているうちに注意力が欠けていたのだろう。
僕は周囲から悲鳴があがるまで気がつくことが出来なかった。


「やっぱり忙しいのかな…。」
親友の絵里奈に相談しても「え、惚気?」と悲しそうな顔をされてしまう。
「真剣なんだけど?」
と声のトーンを低くしてやっと分かってくれたようだ。「でも瑠々の彼氏委員会入ってるんでしょ?だったらしょうがないじゃない。何をそんなに不満がってるのさ。」
とズバッと一言。確かにそうなんだけれど…
「でも今まで約束破ったりされなかったからさ…」
 なぜ私がこんなにも考えているか。それは宙は今まで一度も遅れたり約束を破ったりしなかったからだ。
 浮気などは考えたくもないが一度気になってしまうと頭から離れなくなってしまう。人間とはめんどくさい生き物だ。
「ていうか彼氏クン帰り誘ってくれてたじゃん。なんでそんなに気になってるのに行かないわけ?」
「だって…」
 だって何よ…とブツブツ言われてしまった。行かなかったのには特に理由はない。なんとなく気まずくなってしまっていると思ったから。我ながら勝手な理由で人のことを言えない。
「そんなウジウジしてたら他の子に取られるぞ〜?」
「うっ…。」
 確かに宙は凄く優しい。それに顔も整っている。この上ないほどの王子様だ。
「あんたはさ、宙くんとの関係続けたいわけ?それとも続けたくないの?!」
「続けたいに決まってるじゃん!」
「そう…。」
と絵里奈は少し悩みそしてとんでもない事を言い出す。
「じゃあ明日話しかけて一緒に帰りな。帰れなかったらご飯奢りね。よし決まり。」
「えぇ?!ちょっと待ってそんな急に言われても」
「何よ。いつも話してたじゃん。それをすればいいだけ。イージーよイージー。何が難しいの?」
 またまた刺さる事を言われてしまった。確かに今までやってきた事だけど、状況が状況なのだからやはり難しいところがある。
「…本当にやらなきゃダメ?」
「…自然消滅するよ?」
 言われてしまっては仕方ないか…。

 絵里奈と別れ家路につく。頭は宙の事でいっぱいだ。ふとけたたましく鳴るサイレンの音に気づいた。事故だろうか…?すると母からのメッセージが届いた。慌てて開くと
『どこにいるの?!早く帰ってきなさい!』
と怒りのメッセージが届いていた。そういえば今日は外食の日だった。すぐにメッセージを返し、宙の事はご飯の後に考えることにした。
 何だか胸がドキドキしたりモヤモヤしたりと忙しい。
 風邪だろうか?


結局宙に声をかけることが出来ずに1週間が経ってしまった。

なぜなら宙は私の前から姿を消したから。


ー2年後ー

「瑠々!」
 名前を呼ばれ振り向くと彼氏が手を振りながら立っていた。そしてこっちに笑顔で走ってくる。何だか大型犬みたい。
「お疲れ様。行こっか。」
 そう声をかけて歩き出す。
 高校を無事に卒業した私は今大学生活を謳歌している。
 1番一緒に過ごしたかった君はいない。
 時々大きな悲しみに襲われることがある。紛れもなく彼のせいだろう。
「大丈夫?」
 いつのまにかボーッとしてしまっていたのか彼が心配そうな顔で顔を覗いてくる。私は慌てて
「大丈夫だよ!ごめんね。」
 と訂正する。こんなやりとりを何度しているかわからない。彼には申し訳ないがどうしてもぼーっとしてしまう。直さなくてはいけないな...
 二人でいつものバス停に向かいバスを待つ。いつもは同じバスで帰るけど今日は違う。
 今日は...
「瑠々!バス来たみたいだよ!」
 声をかけられてハッとする。私が乗る予定のバスが到着したようだ。
 ICカードをかざして乗車する。そしていつものように別れの言葉を言う。

「また明日ね。朝陽くん。」

「...うん。また明日な!」
 席につきバスが走り出す。朝陽くんとは付き合い始めて1年と少しがたつ。抜け殻だった私を救ってくれた恩人でもあり、とても大切な人。あの頃の私はきっと手に負えないほど大変だっただろう。
「はぁ...。」
 最近ため息しかでない。なぜなら少し悩み事があるからだ。ここ最近妙なことが身の回りで起きている。例えば机の上から風も吹いていないのに紙が落ちたり、ペンが転がったり落ちたりと、不可解なことが続いているのだ。
 お祓いにでも行ったほうがいいのかな...なんて考えているとあっという間に降りるバス停に到着した。
 近くにある花屋によっていくつか花を買う。そしてようやく目的地にたどり着いた。
「久しぶり、宙。」
 目の前のお墓に眠っているのは大好きだった高校時代の彼氏の宙。二年前のあの日、交通事故で亡くなった。今でも宙とのあの当たり前の日々がなくなり喪失感や悲しさでいっぱいになることがある。
 だが失ったものはもう戻ってくることはない。
「宙、最近周りで変なことが起きててさぁ...」
と気にしないように他愛もないことを話す。やはり宙がいるからかここは落ち着く。あの時のわたしは誰よりも幸せで誰よりも宙のことを想っていたと思う。あんなに愛していたのに今は...
「...宙。私こんなんでいいのかな。」
 宙が亡くなってからずっとそばにいてくれた人を今は好きになっている。朝陽くんのことだ。
「宙が死んじゃって、でも新しい好きな人ができて私だけが幸せになって。」
 考えていたことが溢れ出てくる。
「こんなんでいいのかな...。」
 宙だけを想っていたつもりだった。だけど宙がいなくなって抜け殻になってしまった私を励まし続けてくれた朝陽くんに惹かれて、朝
陽くんと付き合って、朝陽くんとの思い出が増えて、宙との思い出が薄れていく。
 怖かった。あの幸せな日々が薄れていくと考えるとこのままでいいのか、こんなんじゃだめなんじゃないか、と。
「答えてよ...。宙...。」
 わからなくなってとうとう涙がこぼれてしまう。泣いていい立場じゃないのに。
「教えてよ...。」
 返ってくるはずがないのにすがってしまう。どうすればいいのか。もう私には何もわからない。
 その時にふとあの頃話した噂を思い出した。
『どれだけ離れた二人でも想い合っていればまた再会できる。』
「想い合っていれば...。」
 その噂話を信じてしまうほどに一度だけでいいから宙と話したかった。
「宙...。」
 お墓の前で手を合わせ強く想う。宙との思い出、あのときの強い感情。すると右の方から聞き覚えのある、今までで忘れたことのない懐かしい声が聞こえた
「瑠々。」
 右に振り向くとそこには宙がいた。宙は少し透けていたがしっかり宙だった。
「宙...。」
 止まりかけた涙が再び溢れてきた。走って宙のもとへ行こうとすると、宙が
「瑠々、止まって。それ以上こっちに来ないで。」
と、私に声をかけた。
「なんで...?ずっと会いたかったのに...。」
「僕だってそれは一緒だよ?瑠々に触れたいし抱きしめたい。」
 だったら余計に意味がわからない。
「どうして?だったら...」
「今近づいたら、瑠々はまた止まっちゃうだろ?」
 ドクンと胸が鳴った。確かに今、宙に近づいて昔のように話したりしたら好きという気持ちが再び溢れてまた喪失感に襲われてしまうかもしれない。
「だから、そこから聞いて?瑠々。」
 少しの距離をおいて宙が話し出す。
「これから話すのはすべて僕のわがままなんだ。だけど聞いてほしい。瑠々には勝手にいなくなってしまって悲しい思いをさせてしまったよね。本当にごめん。」
「本当だよ...。すごく悲しかったし...辛かった。」
「知ってるよ。ずっと見てきたから。ほらペンが落ちたりしたでしょ?」
「え、あれって...。」
 いたずらっ子のように笑う宙。全部彼のせいだったらしい。
 そしてまた真剣な眼差しで話し始める。
「それでも今幸せだろ?辛かったし悲しかったけれどやっと辛く悲しい気持ちから開放されて今はちゃんと寄り添ってくれる男と...朝陽と幸せになってる。」
 全部宙は見てくれていたらしい。それだけで胸がいっぱいになる。
「きっと瑠々のことだから、私だけ幸せになってもいいのかな?とか考えてるんだろうけど、そんなの気にしなくていいんだ。俺は瑠々が幸せならそれでいいんだ。」
 心に引っかかっていたものが彼の言葉で流れていく。
「そりゃもちろん完全には忘れてほしくない。だけど僕をずっと想っている必要なんてまったくないんだよ。」
 そうか。そうなんだ。幸せになってもいいんだ。
 彼の言葉で不思議と気持ちが安らいでいく。
「だから幸せになってしまえ!」
 宙は泣いていた。私と同じようにぼろぼろ涙を流していた。きっとこれが彼からの最後のメッセージなのだろう。
「僕の分まで幸せになってしまえばいいんだ!僕は幸せに暮らす瑠々や朝陽を誇りに思うよ。」
 どんどん宙の姿が薄くなっていく。
「噂をすれば瑠々を幸せにしてくれるらしい人が来たみたいだし、僕はお暇するよ。」
 そして宙が消えていく。
「ばいばい、瑠々。」
「ありがとう、宙...。」
 そして完全に宙の姿は消えた。と同時に後ろから「瑠々!」と名前を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと朝陽くんが慌てた様子で走ってきていた。宙が言っていたのはこういうことだったのか。
「借りてたノート!返すの忘れてたよ...!ほんとごめん!」
「全然大丈夫だよ。むしろ明日でも良かったのに。」
 そう言うと彼は心配そうに
「明日でも良かったかもしれないけど、なんか心配になっちゃって。また色々思い出しちゃうんじゃないかって...。」
 あぁ。そうか。
「もちろんそれだけじゃなくて!久しぶりに宙に会いたかったってのもあるんだよ...。」
とごにょごにょ言っている。私はこんなにも彼を好きになっていて、そして愛されていたのか。
「...そっか!」
 自分でもわかるほどの笑顔を出す。こんなにも満たされた気持ちになれたのも彼からの愛に気付けたのも宙のおかげだ。朝陽くんはすこし驚いたような顔をしてから
「おう...。」
 となんともいえない返事を返す。それほど昔のように笑ったのが久しぶりということなのだろう。彼にさっきのことを伝えても信じてもらえるかはわからない。
 だから今の私が言える精一杯のことを彼に伝えよう。

「愛してるよ!朝陽!」

と。



どんどん親友と立ち直っていく、幸せになっていく君をみて僕まで幸せになった。

ありがとう、朝陽。さすが僕の親友だ。

瑠々、君はやっとその太陽みたいな笑顔をまた見せてくれたね。

これからはもっと幸せになってほしい。

できることならたまにでいいから思い出してほしいな、なんて。

二人なら幸せになれる。僕が保証する。ずっと見守るよ。

だから愛する君たちよ、幸せになってしまえ。