「俺を君の一番にしてくれてありがとう」


 親友との飲み会に行ったあなたからの電話は、帰りが遅くなる連絡やこれから帰ると言う連絡ではなかった。
 予想もしていなかった言葉に驚く。

「どうしたの急に。酔ってる?」
「それもあるかも。早く今日の話……俺の親友の話を聞いて欲しい」
「今日飲み会行く前にも聞いたじゃん。……まぁ、それだけ大切な友達なんだよね。気をつけて帰ってきなね」

 電話越しからでもあなたがご機嫌だということが伝わってきた。大切な親友と久しぶりに過ごした時間はきっとあっという間で、言葉では言い表せないくらいかけがえのない時間だったのでしょう。
 姿が見えなくてもきっとあなたは笑っているはず。その姿が簡単に想像できてしまう。その姿を思い浮かべると私も釣られて笑ってしまう。ふふふと小さく笑いながら私は電話を切った。

『君の一番にしてくれてありがとう』

 それは私のセリフだ。

 私をあなたの一番にしてくれてありがとう。


 私はあなたの一番になれた。
 「これからのあなた」の一番に。
 
 でも私がなれない一番もある。 
 「過去のあなた」の一番に私はなれないーーーー。





 太陽と付き合う前からーー出会ったばかりの時から「セイラ」と「テルアキ」の話は聞いていた。親友であり幼馴染みの二人。
 二人の話をする時の太陽は何よりも嬉しそうで楽しそうで、無邪気な子供の様な顔で笑っていた。
 私のことを他の人に話す時はきっとこんな顔をしない。
 太陽にそんな顔をさせる二人のことを知りたいと思う自分と、知りたくない自分がいた。
 知らないうちに名前しか知らない二人に嫉妬をしていた。そんな自分を幼稚に思うがやっぱり嫉妬してしまう。

 だってどれだけ頑張ってもセイラとテルアキには敵わないんだもん。

 二人との飲み会は夜からだというのに、太陽は朝からずっと落ち着きなくそわそわしていた。遊園地に行く前の子供みたいだった。
 どの服を着て行こうかだとか、二人とも元気かなとか、話したいことが沢山あるんだと言いながら、何回も鏡の前で同じことを言いながら髪型を確認していた。
 その落ち着きのない姿を呆れながら見ていたが、太陽にそこまでさせる二人がどんな人なのかどうしても知りたくなった。
 そう思うと自然と言葉が出てきた。

「写真とかないの?」

「えー、どうしよっかな」と口ではそう言うがまんざらでもない表情をしている。スマホでスワイプしながら二人の写真を嬉しそうに探している。
 普段私には見せない顔だ。

「これとかいいかも。高校の時の写真」

 太陽は部室と思われる部屋で三人でぎゅっと集まり、スマホのインカメで撮った一枚の写真を見せてくれた。

 写真の中でセイラを中心に太陽とテルアキが笑っていた。「この辺とかもよく撮れてると思う」と言いながら、画面をスワイプしながら嬉しそうに二人との写真を見せてくれた。
 
 分かってはいたがこの二人のことが本当に大好きで大切なのだろう。

 二人の話が止まらない。
 次から次へと三人でのエピソードが出てくる。

「ん?」

 その話を聞きながら何枚か写真を見ているうちに私はあることに気がついた。

 セイラが太陽のことを好きだということを。

 写真に写る目線や表情からセイラが太陽のことを好きだと気付いた。テルアキに向ける表情と太陽に向ける表情が違ったのだ。

 セイラは太陽とテルアキのことが大切なのだろう。きっと大好きなんだと思う。
 でもセイラが太陽に向ける「好き」とテルアキに向ける「好き」は違う様だった。

 確信はない。女の勘だ。でも、女の勘というものは意外と当たることが多い。

 テルアキに対しては「親友」としての好き。
 太陽に対しては「異性」としての好き。

 同じ好きでも種類が違う。
 セイラが太陽を見る顔は完全に恋している表情だった。写真からでも分かる。私が周りからの視線に敏感だったせいかもしれないが……。
 少し胸がモヤモヤとしてくる。

 太陽はきっとセイラの想いに気が付いていないのだろう。テルアキのことを話す時と同じ様にセイラのことを話していた。

 むしろその方がいい。
 セイラの想いに気付いてほしくない。

 気付いてしまったらもしかしたらセイラの方に行ってしまうかもしれない……。太陽はそんなことをしないと分かっている。そんなことは無いと分かってはいるが、少し不安になってしまう。
 小さい頃から身近にいて、一緒に育った幼馴染みというポジションはどれだけ願っても、どう頑張っても私はなれない。
 
 太陽が一番楽しかったと言ってる青春時代に私はいない。

 私が知らない太陽をセイラは知っている。

 私がなれない一番だ。

 もっと早くに太陽と出会いたかった。そうしたら太陽の一番でずっといられた。昔の太陽もこれからの太陽も一番知っている人になれた。願っても叶うことがない事実だ。

 私は「昔のあなた」の一番にはなれない。

 でも、「これからあなた」とはたくさん話して笑い合って、時には喧嘩もしながら思い出を作って、一番あなたのことを知る人に私はなれる。


 マグカップにカモミールのティーパックを入れてお湯を注ぎながらあなたの帰りを待つ。

 きっとあなたは久しぶりの親友との飲み会が楽しかったと上機嫌で帰ってくるでしょう。もしかしたら酔っ払って玄関で寝てしまうかもしれない。そんなあなたを私は愛おしく思う。


 カモミールティーを片手に窓の外を見ながらあなたの帰りを待つ。

 私を一番に選んでくれたあなたに早く会いたい。