「今度結婚することになった」

 久しぶりに会う親友が嬉しそうに言う。

 
 とうとう結婚か。

 別に驚きはしなかった。
 
 元々太陽からは好きな子ができたこと、振られたこと、再会したこと、付き合えたことまで全部聞いていた。いや、聞かされていたと言った方が正しいのかもしれない。

 だから別に驚きはしなかった。一番好きな人と結ばれたことに心から祝福した。

 おめでとう、太陽。



 高校卒業後、星来は地元の大学に進学し、俺と太陽は大学は違えども東京の大学に進学した。太陽とはたまに会ったりあっちから電話をかけてきたりしていた。

 太陽から久しぶりに、しかも夜遅くに電話がきて何事かと思い慌てて電話に出れば、失恋の報告だった。

「俺はお前のママじゃないぞ」

 そう言いながらも俺は親友の話を聞き慰めていた。太陽が振られるなんて珍しいと思いながらも、話を聞いていると本当に好きだったことが電話越しでも伝わってきた。

「珍しいな太陽が振られるなんて。そんなに好きだったのか?」
「初めてこんな気持ちになった。恋って難しいな……」
「……そうだな」

 想いを伝えるのって難しいよな。俺は未だに星来に想いを伝えられていないーーーー。

 太陽は中高ひっきりなしに告白されていた。しかし、誰とも付き合うことはなかった。
 昔、一度試しに付き合ってみればどうかと言ったことがある。

「本当に好きにならないと付き合えない。だって相手にも悪いだろう? たぶん照明だってそうだろ?」

 ごもっともだ。
 俺も本当に好きじゃないと付き合えない。

 軽い気持ちで聞いてごめんと、心の中で反省した。そんな俺に気を使ったのか、太陽は薬指で俺の額を弾いて俺の驚いた顔を見て笑っていた。

「辛気臭い顔すんなよ」

 一緒に過ごしている時間が長いせいもあるが、太陽は俺も含め本当によく人のことを見ている。今みたいに小さな変化にもすぐ気がつくし、俺がへこんでいると思えばすぐにフォローしてくれる。

 だから人から好かれ人気者であり、モテるのだろう。

 そんな太陽だから星来も惹かれたのだろうーーーー。
 
 俺は太陽にはなれない。
 ……星来の好きな人にはなれない。



 久しぶりに会う親友の結婚発表を心から喜ぶ俺とは対照的に、右隣にいる俺の好きな人の酒で赤くなった顔が一気に青ざめていた。

 分かりやすいなぁと思いながら、俺が好きな人が好きな人ーー太陽はそんなことなんて気づいていないようだった。上機嫌で笑っている。

 昔から恋愛ごとに対しては鈍い二人。

 星来は俺の想いに気づいていないし、太陽も星来の想いに気づいていない。

 この二人ならお似合いだと思っていたし、太陽になら星来が取られてもいいと思っていた。
 星来が好きな人だし、何よりも俺自身が太陽がいいやつだって知ってるから。何なら俺が女だったら太陽と付き合いと思う。

 ……何思ってるんだろ俺。
 でもそう思えるくらい太陽は本当にいいやつなんだ。だから二人が付き合ったらいいなって本気で思ってた。

 星来には笑っていてほしかった。

 昔から気を使って星来と太陽が二人きりになるように仕向けたり、三人でいる時も一歩引いたりしていた。しかし、そんな俺の努力も虚しく二人は「照明!」と俺の名前を呼び、手を引いて俺が作った二人の空間に俺を引き入れる。

 あぁ、俺の努力が……。なんて思うこともあったけど、そんな二人の優しさとこの三人でいることを大切にしてくれていると思うと嬉しかった。

 俺は星来と太陽が大好きなんだ。

 そんなこと言うと二人はいじってくるから絶対に言わないけど。



「太陽、おめでとさん」

 太陽の空いたグラスにビールを注ぐ。「サンキュー」と言いながら相変わらず上機嫌に笑っている。そんな顔して笑われるとつられて俺も口角が緩む。

 太陽、本当におめでとう。親友のめでたい報告は心から嬉しい。
 俺の右隣にいる人は違うのかもしれないけれど。突然の結婚発表でおそらく頭の中が真っ白になっているんじゃないだろうか?

「太陽おめでと!」

 ワンテンポ遅れて星来が太陽に言う。ハッと我に返って慌てて言ったのだろう。本人が想像していた声量よりもはるかに大きく出た星来の声は居酒屋に響き、店内にいる全員が一斉に俺達のテーブルを見る。

「星来声でけぇよ」

 飲み会も中盤から終盤に差し掛かっており、三人ともある程度酔っている頃である。酒が入っていることもあり太陽がゲラゲラ笑い、それに釣られるように俺も思わずクスクスと笑ってしまった。ビールで赤くなっていた星来の顔がさらに赤くなる。

 俺の好きな人は酒で赤くなったり、ショックで青くなったり、恥ずかしくてまた赤くなったりと忙しい。

 星来はグラスに半分残っていたビールを一気に飲み干し、「ん」と太陽の目の前に空いたグラスをドンッと置いた。
 目の前に置かれた空っぽのグラスに「ありがとな」と無邪気に笑いながら太陽はビールを注いだ。

 そんな二人のやり取りを見ながら、このままこの時間が終わらなければいいのーーーーそんなことを思っていた。
 
 適当に酒を頼みつつ、三人で思い出話を募らせる。
 表情は変わらないが星来が泣きそうな顔をしている様に見えた。よっぽど太陽の結婚発表がこたえたのだろう。
 確かに久しぶりの再会でいきなり結婚発表されるとなかなかしんどいのも分かる。直接振られたわけではないが、恋が終わったわけだし。しかも星来の場合は中学の頃からずっと太陽のことが好きだったわけで……十年以上の片想いだったのだから。

 そう考えると俺も十年以上星来に報われない片想いをしていたことになるのか……。
 俺もなかなか一途なんだな。
 
 
「彼女の写真とかないの?」

 星来が聞くと「どうしようかな」と言いながらも、太陽はまんざらでもない顔をしていた。内心聞かれるのが嬉しい様だ。どれがいいかなと言いながらスマホをスワイプして、一枚の写真を選び俺と星来に見せた。

 何回か見たことある太陽の彼女……今は婚約者か。
 
 星来と正反対なタイプの女性だ。

 きっとそのことは星来が一番よく分かっているだろう。本当は写真を見るのが辛いだろうに、自分で話題を振ってしまったから聞かないと悪いと思い、太陽が嬉しそう婚約者について話すのを聞いている。本当は泣きたいだろうに。下唇をグッと噛んで堪えている。

 そんな星来の横顔をただ俺は見ることしかできなかった。

 残念なことに楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。お開きの時間となってしまった。

「星来、照明今日はありがとな。結婚式絶対に来てくれよな! 二人は俺の一番の親友だからさ」

 一番の「親友」か。

 言葉にして言われるとなかなか照れる。
 ……本当は嬉しかったりする。
 言うと調子にのるから絶対に言わないけど。

 上機嫌に俺と星来に手を振って太陽は俺達と反対方向に帰って行った。

「俺らも帰ろうか」と帰る方向を指をさす。飲み会帰りの会社員に混じりながら俺達も駅に向かった。



「太陽が結婚かぁ。なんか実感ないね。照明は彼女いないの?」
「いない。星来は?」
「残念ながらいませーん」

 あはははと笑って明るく振舞っているけれど、どことなく星来の表情は曇っていた。

「てか、いないんだ?」

「今は」いない。

 でも大学時代に一人だけ付き合ったことがある。
 誰にも話したことのない……太陽にも話したことがない期間限定の恋人――――。


三橋(みはし)君好きです。私と付き合ってください』

 夏休みで他に誰もいない二人だけのゼミ室で彼女はそう言ったーーーー。




 大学三年の夏休み初日。忘れ物を取りにゼミ室に行った時だった。

 夏休みで誰もいないはずのゼミ室に電気がついており、自分以外にも登校している人がいるんだと思いながらドアノブを回す。
 ガチャッと鳴った音に気付き一人の女子生徒がこちらを振り向く。

 同じゼミの朝田(あさだ)さんだった。
 同じゼミと言ってもお互い話しかける仲でもなく、ゼミがある日に顔を合わせてあいさつする程度の関係だった。

「今日から夏休みなのにどうしたの?」
「ちょっと忘れ物を取りに。朝田さんこそどうしたの?」

 何か言いたそうに口はもごもごさせているが、朝田さんの口からはなかなか声は出て来ず、やがてもごもごしていた口も止まってしまった。

 俺、そんなに変なことを聞いた? 
 返答がないため不思議に思っていると少し間をおいて再び朝田さんが口を開いた。

「これを取りに来る人を待ってた」

 彼女の手にはゼミ室に俺が忘れて行ったICカードがあった。

「わざわざ持っててくれたの? 置いといてもらえれば勝手に取りにきたのに」
「一応お金が入っている物だし」

 親切な人だなぁと思いながら「ありがとう」と言ってICカードを受け取り帰ろうとすると「ちょっと待って!」と呼び止められた。朝田さんは何か言いたそうに今度は口をパクパク動かしているがやはり言葉がなかなか出て来ない。

 再び沈黙が流れる。今度はさっきよりもうんと長い。

「えっと……俺に何か用があーーーー」

 数分経っても朝田さんから言葉が出て来ないので俺から声をかけた時だった。

「三橋君好きです。私と付き合ってください」

 俺の声と被るように朝田さんが早口で顔を真っ赤にしながら言った。

「え?」

 再び沈黙が流れる。

 え、俺今告白された? え?

 突然の告白に驚き呆気に取られていると朝田さんはさっきよりもさらに顔を真っ赤にして両手で口を覆っていた。

「きゃー! 違くて! いや違くなくて! えっと……!」

 朝田さんが慌てだす。

 手が当たり机に置いてあった参考書を床にバラバラと落とし、急いで拾おうとするが焦っているせいかなかなかうまく拾えず、拾っては手から滑って落とすを何度も繰り返している。
 不思議と自分より慌てている人を見ると人間は冷静になれる様で、突然の告白に驚いていた心が落ち着いていた。

 朝田さんが落とした参考書を拾い上げ、彼女に椅子に座るように促した。

「朝田さん落ち着いて。一回深呼吸してみようか」


 何回か深呼吸をすると朝田さんも落ち着いた様でやっと目が合うようになった。
 さて、どうしたものか。選択肢は二つ。

 選択肢一、告白について触れず聞こえていなかっとことにする。
 選択肢二、告白を確かめ断る。

 考えていると今度は朝田さんの方が先に口を開いた。

「突然でびっくりしたよね。私、ゼミが同じになった時から……ううん。きっともっと前から三橋君のことが好きだったの。私と付き合ってください」

 選択肢一がなくなってしまった。
 でも返事はもう決まっている。

「ありがとう。でも好きな人がいるから気持ちには答えられない」

 何度か告白されたことがあったが、全てこの断り方をさせてもらっている。
 断る時は毎度申し訳なく思う。でも中途半端に付き合ってしまうと相手に悪いから仕方がない。今までこの断り方でみんな諦めてくれた。
 
「今まで」は。

「そっか……。その人に告白しないの?」
「しない」
「どうして?」

 どうして? と言われても。

「その子は別の人が好きなんだよ。俺の親友が好きなんだ。だから想いを伝えるつもりはないよ」

 そうーーーー星来は太陽のことが好き。俺は星来のことを応援したい。

「じゃあ私にチャンスをください」
「え?」
「一か月……いや一週間でもいいから!」
「俺、好きな人がーーーー」
「お願い! 私にチャンスをください! 一週間で三橋君を振り向かせられなかったら諦めるから」

 深々と頭を下げられてしまった。「好きな人がいる」そう言えば今まではみんな諦めてくれた。でも朝田さんは違う。

 本当に俺のことが好きなんだ。

 精一杯断る方法を考えているが答えが見つからない。もし見つかったとしても、この様子だときっと朝田さんは納得してくれないだろう。

 本当は良くない。良くないと分かってる。でもーーーー。

「……分かった。一週間だけ。一週間だけね」
「ありがとう! 頑張って三橋君を振り向かせるね」

 押され負けてしまった……。
 朝田さんが喜んでいる姿を見ると何とも言えない気持ちになる。本当にこの選択がいいか分からないが、彼女が折れてくれない限りこの選択肢を取るしかなかった。本当は取りたくなかった選択肢だが許してください。

 こうして俺と朝田さんは「期間限定の恋人」になった。




 朝田さんは成績優秀のいわゆる優等生タイプの人間で、目鼻立ちがキリッとしており可愛らしいというよりも美人と言われるタイプの人だ。才色兼備という言葉がよく似合う。
 俺の友人曰く、誰に対しても優しく性格も抜群にいいらしい。ゼミは同じだが正直あまり話したことはない。

 なぜそんな人が俺のことを……。

 足取り重く朝田さんとの待ち合わせ場所に向かう。
 いくら彼女に押され負けたとしても、彼女とは一週間という期間限定の恋人になったのだ。OKを出したのだから俺も約束は守らなければならない。

 待ち合わせ時間の十分前に着いたのに、朝田さんは先に着いていた。俺に気づいておらずスマホを鏡代わりにして前髪を直している。朝田さんが前髪を直し終わったタイミングで合流する。

「ごめん、待たせちゃったね」
「全然大丈夫! 私が自分で時間決めておきながら、ちょうどいい電車がなくて早く着いただけだから」

 朝田さんは俺の顔を見ると頬を薄ピンク色に染めて目線を逸らしながら言う。少し緊張している様だった。目がなかなか合わないず、挨拶をしてから黙ってしまった。

「行こうか」と声をかけ、緊張して固まっている朝田さんの手を取り水族館に向かう。
 何も話しかけてこないため朝田さんの顔を覗き込むと、さっきまで薄ピンク色だった顔が真っ赤になっていた。

 しまった……。

 緊張を和らげようとしたつもりが逆にさらに緊張させてしまったようだ。
 確かに好きな人と手をつなぐと緊張するものか。

「ごめん、嫌だったよね」

 手を放そうとすると朝田さんは俺の手を握った。

「嫌じゃないの。ちょっと緊張してるだけ……。だからこのままで」
「了解」

 普段は才色兼備と言われるような完璧な朝田さんが、顔を真っ赤にしてそんなことを言うなんて想像もつかなかったから不覚にも少しドキッとしてしまった。これがギャップというやつか。

 水族館内に入ると、さっきまで緊張していたのが噓のように朝田さんは子供の様に無邪気にはしゃいでいた。その楽しそうな姿を見ているとこっちまで笑顔になりそうだ。

 どうやら水族館が好きな様だ。

 期間限定の恋人の期間内は朝田さんがデートプランを考えてくる。
 さすがに毎回は悪いと思って自分も考えると言ったが、「私が無理矢理付き合ってもらっているんだから私に任せて」と断られてしまった。友人から聞いた通り朝田さんはいい人だ。

 無邪気にはしゃぐ朝田さんがあまりにもいい顔で笑うから無意識にスマホのシャッターを押していた。パシャッとカメラを切る音に気付き、水槽をみていた朝田さんが振り向く。

「今絶対変な顔してた!」
「ごめん、あんまりいい顔で笑ってたからつい。変な顔じゃなくて可愛いから大丈夫だよ」

 そう言って朝田さんに撮った写真を見せる。

「本当に? 本当だ。こんな顔して笑ってたんだ私」
「水族館好きなの?」
「うん。海の生き物が好きなの。でもイルカショーが一番好き。あ、そろそろ始まりそう。見に行こう!」

 今度は朝田さんの方から手を握り、俺をイルカショーに連れていく。緊張で固まっていたのが嘘の様だ。


「後ろでも見えるけどせっかくだから前に行こう」

 水がかかると注意喚起がされている席の少し後ろに場所を取り座った。イルカショーなんて小学校の遠足以来だから内心わくわくしている自分がいる。

「三橋君笑ってる」
「え?」
「そこにいる男の子みたいな顔してるよ」

 朝田さんが斜め前に座っている小学校低学年ぐらいの男の子を指さす。思わずスマホで自分の顔を確認する。

 俺そんな顔してた?

「朝田さんだってさっき子供みたいに笑ってたよ。大学ではしっかり者の優等生って感じなのに」
「好きな場所に好きな人と来たからはしゃぎすぎちゃったのかな? ……恥ずかし」

 口ではそう言っているが、朝田さんまんざらでもない顔をしている。

「三橋君だからかな? 素の私を見せられるの。思いっきり泣いてるところ見られてるから」
「そうなの?」
「そうだよ。三橋君覚えてないかもしれないけど、入学して三日ぐらいだったかな? 私大学内でキーホルダー落としちゃってさ。実家で飼ってた犬の写真が入ってるやつ。大学来る前に亡くなってさ、形見代わりに持ってたんだけどいつの間にか落としちゃったみたいで、ずっと地面に這いつくばって探してたの。大学広いしどこで落としたのか分からないし、もう見つからないって思ってたけどどうしても諦めきれなくて。次の日雨の予報だったから何とか見つけたくて。でも見つからなくて絶望してた。日が落ちて暗くなってるのをいいことに泣きながらずーっと探してたの。そしたらたまたま三橋君が通りかかって声かけてくれて、事情を話したら一緒に探してくれたの。覚えてないでしょ?」
「……ごめん」

 申し訳ないが全くと言っていいほど覚えがない。
「あはは、いいよ」と笑いながら朝田さんは話続けた。

「二人でスマホのライト使いながら探してさ。それでも見つからなくて。ずっと泣きながら探してたから、その時きっとひどい顔してたと思う。結局キーホルダーは見つからなくて、その日は諦めて帰ったの。次の日は予報通り朝から雨で、もう見つからないなって諦めてたんだ。そしたら、服を泥だらけにして三橋君登校してきてさ「はい」って私に落としたキーホルダー渡してくれたの。ちょっと汚れちゃってごめんねって言いながら。私は諦めてたのにずっと探してくれてたの」
「……そんなことあったっけ?」
「あったんだよ。そこから私、三橋君のこと好きになったんだもん」

 正面から俺の顔を見ながら朝田さんが微笑んだ。屋外で光が当たっているせいなのか、いつもより彼女の顔がきらきら輝いて見えた。

「覚えてなくてごめーーーー」

「さぁ、皆さんお待たせしました! プールにご注目ください! 」

 俺の声はイルカショーのスタッフにかき消される。イルカショーが始まった。
 次々とサブプールからメインプールへイルカが移動し、ジャンプや泳ぎで観客をわかせる。久しぶりに見るイルカショーは子供の時と変わらずわくわくさせてくれる。

「三橋くん、すごいね!」
「そうだね。久しぶりに来たけどすごい楽しいや」

 自然と笑顔になる。

「今日一番の笑顔だね」
「朝田さんもだよ」

 二人で顔を見合わせて笑い合っていると、注意喚起のアナウンスが流れた。

「次はうちのおてんば娘のハルが、尾ビレを使って皆さんに向かって水を飛ばします! 黄色の椅子より前は水がかかります。また、その周辺にも水が飛ぶ可能性があります! 水に濡れたくない方は後ろの席にご移動お願いします」

 俺達は注意喚起されている黄色の椅子より五席程後ろに座っていた。きっと濡れたとしても少しだろう。

「どうする移動する?」
「流石にここまでは飛んでこないでしょ? 飛んできてもちょっとだから大丈夫だよきっと」

 一応移動の提案だけはしてみた。朝田さんも同じ考えだったようだ。周りに座っている人も移動せず座っているため、おそらく大丈夫だろうということで、俺達は移動せずイルカショーの続けて見ることにした。

 他に人もいるし大丈夫だろう。
 
 しかし、その考えは甘かった。
 今日のハルのコンディションは絶好調だったらしい。ハルが尾ビレで叩いた水面は勢いよく水飛沫を上げ、目安とされていた黄色の椅子を余裕で超えた。当然俺達の頭上には予想を遥かに超えた水飛沫がかかった。プールに飛び込んだみたいに顔も服も鞄も全てずぶ濡れだ。

「……今日はハルが絶好調だったみたいですね! 全身びしょ濡れのお客様! 水族館内は冷える場所もあります。それにせっかくのお出かけなのにずぶ濡れはちょっと悲しいですよね。でも大丈夫! 一階の売店にはタオルはもちろん着替えも売っています! ぜひ見て行ってくださいね!」

 今日の水飛沫はスタッフも予想外だった様で、すかさずイルカショーのお姉さんがフォローを入れていた。
 予想外のずぶ濡れに驚いて呆然としていると、隣から大きな笑い声。

「あははは! 私こんなに濡れたの初めて! 三橋君見たことない顔してる」

 朝田さんはずぶ濡れの俺を見て笑った。自分だってずぶ濡れじゃないか。

「朝田さんだってずぶ濡れじゃん。俺だってそんなにずぶ濡れの朝田さんを初めて見たよ」
「水も滴るいい女でしょ?」

 ドヤ顔で朝田さんが言う。
 予想外の言葉に思わず吹き出してしまった。
 
「ひどーい、吹き出すなんて」
「だって、まさか朝田さんからそんなワードが出てくるとは思わないじゃん」
「私だって冗談のひとつやふたつぐらい言うよ」

 さっきの朝田さんの言葉がツボに入ってしまい息ができない。段々と脇腹が痛くなってくる。

「私だって三橋君がそんなにツボが浅い人だと思わなかった。お互い様でしょ?」
「そうだね。せっかくだから売店に行ってみる?」

 笑いをこらえながら提案すると、朝田さんは「いいよ」と二つ返事で返してくれた。


 
 売店でお土産を見て、お開きとなった。最初は足取り重かったデートは何だかんだ楽しかった。

「今日はありがとう! 楽しかった」
「俺も久しぶりに水族館に行って楽しかった。ありがとう」

 今日の出来事を話しながら駅まで向かう。
 話すスピードとは違い、朝田さんの歩くスピードはゆっくりで、それに合わせて歩幅を調整する。
 でもどれだけゆっくり歩いても駅には着いてしまう。

「じゃあ、俺はこっちだから」
「待って!」

 手を振って別れようとすると、朝田さんが俺を引き留めた。

「本当に今日はありがとう。本当は今日来るの乗り気じゃなかったでしょ? 私のわがままに付き合ってくれてありがとう」
「最初は……正直どうしようかなって思ってた」

 「そうだよね」と朝田さんが少しうつむいて苦笑いをする。
 そう、最初は足取りが重かった。でもーーーー。

「でも、今日一日楽しかった。嘘じゃないよ。朝田さんの意外な一面も見れたし」

 少しうつむいた顔が上がり俺の顔を見る。眉毛を下げ、不安そうな表情をしている。

「本当に?」
「うん」
「私も三橋君のこと知れた気がする。だから……だからまた会ってくれる……?」
「一週間は朝田さんの彼氏なんじゃないの? 俺のこと、振り向かせてくれるんじゃないの?」

 俺がそう言うと、朝田さんは一瞬泣きそうな顔になってから笑った。

「そうだよね! 絶対振り向かせてみせるから覚悟してね!」

 バイバイと手を振って反対方向の改札に走って行った。

 俺が知っている朝田さんと今日知った朝田さんは違った。もちろんいい意味で。
 才色兼備で大人っぽいと思っていた彼女だが、本当は水族館で子供の様にはしゃぎ冗談も言う親しみやすい人だった。


 
 水族館での出来事で朝田さんとの距離が縮まった。
 夏休みといえどお互いにバイトもしていたため、毎日どこかに遊びに行くことはできなかったが、短いながらメッセージでやり取りし、時間が経つにつれ何て返事をしようと困ることも無くなった。気が付けば四日目からは電話で毎日話す仲になっていた。

 朝田さんのことをもっと知りたい。

 そう思った時点で少なからず彼女に惹かれている様だ。


 
 そして七日目。期間限定の恋人の最終日。

 朝田さんから恋人継続でも終了でも、返事を聞く前に一緒に映画に行きたいと言われ、ショッピングモール内の映画館に向かう。

 DVDを含め映画なんて久しく観ておらず高校以来だ。
 最後に観たのは何だったっけ。思い出せそうでなかなか思い出すことができない。

「三橋君! こっちこっち!」

 朝田さんが俺の姿を見つけ大きく手を振った。それに応える様に小さく手を振り返した。

「今日はありがとう! でもちょっと意外。三橋君がこのシリーズを観たことあるなんて」
「そうかな?」

 これから観る映画はどちらかといえば女性、特に女子中高生に人気のシリーズの四年ぶりの新作だった。
 確かに何で観たことあるのだろう。少し疑問に思ったが気にしなかった。

 そんなことよりも朝田さんに何て返事をしようかまだ悩んでいたからだ。

 初めはぎこちなかったが、この一週間楽しかった。みんなが思っているよりも朝田さんは親しみやすく、みんなが知っている通りいい人だった。

 そんな彼女に少し惹かれている自分がいる。
 一方で、そんな気持ちで付き合っていいのかと思う自分もいる。

 だからこそ何て返事をしようか悩んでいる。

 そんな俺の悩みも知らず、劇場はゆっくり暗くなり映画が始まった。
 四年振りも新作ということもあり、初めに前作の簡単な振り返りから始まる。

『次の新作は映画館で観ようね!』

 前作の振り返りを懐かしみながら観ていると、誰かの声を思い出した。それと同時にゆっくりと三人で過ごした部屋を思い出す。

 星来と太陽の三人で過ごしたあの部室をーーーー。

 横に棚があったせいもあるが、三人で横並びになると少し狭く埃っぽいあの部室。
 三人で過ごした思い出が詰まった場所ーーーー。

 思い出した。最後に観た映画を。このシリーズの前作だ。
 部室で星来と太陽の三人で観た。星来がどうしても三人で観たいと言って、DVDを全巻借りて初めから前作までほとんどぶっ通しで観た。
 本当は今観ているものが高校生のうちに公開される予定だったが、撮影が上手く進まなかったり俳優側の都合だったりで公開がかなり延期となり、最近公開されたのだ。

『次の新作は映画館で観ようね!

 前作を見終わった後、星来が太陽と俺にそう言った。しかし、高校生のうちに新作が公開されることはなく一緒に観ることはできなかった。

 振り返りが終わり本編が始まった。
 ギャグシーンのはずなのに胸がグッと熱くなり苦しい。主人公を観ていると物語ではなく、三人で観た部室と空気を思い出してしまうーーーー。

 
 映画に集中できないまま、気が付けばエンドロールが流れていた。
 映画が終わったら朝田さんに返事をしなければならない。

 あれだけ悩んでいた返事が決まったーーーー。



 映画が終わると俺たちは映画館があるショッピングモール内のカフェに入った。

「んー、映画面白かったね」

 俺が映画に集中できていなかったことを知らない朝田さんは、伸びをしながら言った。

「……三橋君?」

 返事が返ってこないため、朝田さんが俺の顔を覗き込んだため慌てて「そうだね」と答える。

「それでね、あの……返事を聞かせて欲しくて。告白の返事」

 遂にこの時が来た。
 でももう返事は決まったーーーー。

「一週間ありがとう。楽しかった。今まで知らなかった朝田さんのことも知れたし」
「じゃあーー」
「……でもごめん。朝田さんとは付き合えない」

 一度下を向いて一呼吸おいて、朝田さんの顔を見ながら告白の返事をした。俺の返事を朝田さんは悲しそうな顔をして聞いていた。


「どうして?」
「朝田さんは美人だし、噂に聞いてた通りすっごくいい人だった」
「だったらーーーー」
「だからこそ朝田さんを一番に想う人と付き合うべきだ」

 朝田さんのことを心から大切にしてくれる人と。

「……私、二番でもいいよ」

 朝田さんが瞳に涙を浮ばせながら言った。でも俺は応えることはできない。

「……ちゃんと君を一番に想う人と付き合うべきだよ。直接じゃなくても俺はきっと朝田さんを傷つけてしまうと思う。だから俺は君とは付き合えない」

 君の一番になれないーーーー。

 俺がなりたいのは今も昔も変わらず星来の一番だった。

「そっか……。言ってたもんね、好きな人がいるって」
「うん。ごめんね」
「大丈夫。無理言って付き合ってもらってたのは私だから。……でも、最後にひとつわがままを聞いて」

 俺の顔を真っ直ぐに見つめて朝田さんが言った。

「わがまま?」
「最後に一回でいいから下の名前で呼んでほしい」

 そんなことでいいのかと一瞬思ったが、朝田さんの表情は真剣だった。

「まひる」

 大きく深呼吸をしてから、この一週間の感謝もこめて優しく微笑みながら朝田さんの名前を呼んだ。

「照明、ありがとう」

 朝田さんは両目から涙を流しながら笑顔で俺の名前を呼んだ。

「三橋君も好きな人が他の人が好きだからって諦めるんじゃなくて、ちゃんと想い伝えなよ。想いって言葉にしないと伝わらないから」

 朝田さんは最後にそう言い残した。
 その後は何事もなかったかの様に世間話をしながら最寄駅まで二人で帰った。

 こうして朝田さんとの期限付きの恋人は終わった。




 仕事が大変だとか久しぶりに同級生に会ったとか、星来とお互いの状況を話しているとあっという間に駅に着いた。

「じゃあ私はここで。また今度ね」と手を振って別れようとする星来を止める。

「タクシー乗ってくよ」
「いいよ。そんなに遠くないし」
「遠くなくても夜も遅いし、最近物騒だから」

 こんな夜に一人で帰すわけにはいかない。何かあってからでは遅いと思って言ったつもりだった。

「……田舎のおとんですか」
「反抗期の娘をもつと大変です」

 星来から想像の斜め上をいく発言が返ってきたため、思わず笑いそうになるのをこらえながら負け時に返す。
 星来もまさかそんな返しが返ってくるとは思わなかった様で笑っていた。そんな星来を見て俺も歯を見せて笑った。

「二人で乗ればそんな高くないだろ?」
「照明、遠回りになるし電車で帰った方が安いじゃん」
「久しぶりに会ったんだからもうちょい一緒にいるのもいいんじゃない? ほら行くぞ」

 こんな夜遅くに一人で帰したくないのも本当だ。
 ……でも本当はもう少し星来と一緒にいたかった。素直にそう言えばばいいのだろうけど恥ずかしくて言えなかった。だからこんな言い方になってしまう。

 当の本人は俺の気持ちなんて知らないだろうけど。

 手招きをして星来を呼び二人でタクシーに乗る。タクシーの中でも昔の話をして楽しく笑い合った。

 この時間がずっと続けばいいのに。

 そんなこと思っていても楽しい時間はあっという間に過ぎ、星来のアパート前に着いてしまった。メーターを確認し財布を取り出そうとすると星来の手を遮る。

「俺まだ乗ってるからいいよ」
「さすがに悪いからいいよ」
「いくらでもないから大丈夫」
「でも……」
「そしたら今度飯奢って。太陽の結婚祝い買いに行く時でもさ」

 金額的にもそこまで高くない。
 それに少しだけ……少しだけかっこつけたかった。

「じゃあお言葉に甘えて。ありがとう。また連絡するね」 

 星来は悪いと思っている様で少し考えていたが、俺が譲らないため折れてくれた。

「おう。明日休みだからって夜更かしすんなよ」
「分かってる。照明パパの言うこと聞きますよ」

 顔を見合わせて笑い合い星来はタクシーを降りた。タクシーの中から手を振ると星来は手を振り返しながら見送ってくれた。

 


 タクシーを降り、誰もいないアパートの鍵を開けて中に入る。
 そのままベッドの上にドサっと寝転び天井を見上げた。

「楽しかったな」

 久しぶりに二人に会えて楽しかった。二人とも変わっておらず、素の自分でいられた。嬉しかったしほっとした。さっきまで一緒にいた二人のことを思い出すと、自然と口角が上がる。

 ただ星来のことが少し心配だった。
 今日の様子を見た感じだとまだ太陽のことが好きだった様だから。
 きっと太陽と久しぶりに会うのを楽しみにしていたはずだろう。

「俺は彼女がいるの知ってたけど、星来にとってはいきなりの結婚発表だもんな」

 長年の片想いがいきなり終わったわけだ。一人で泣いているのではないかと心配になる。

 心配ではあるが電話をかけようか悩む。俺は星来が太陽のことが好きなことを知っているが、あっちは俺が知っていることを知らない。
 その状態でいきなり俺が電話するのもどうなのだろう。嫌な思いをさせたらどうしようと思ってしまう。

 少し悩んでから泣いていなければそれでいいし、もし一人で泣いているなら励ましたいと思い電話をかけることにした。
 
 電話をかけ呼び出し音が鳴るがなかなか電話に出ない。時間も遅いため、もしかしたらもう寝ているかもしれない。
 電話を切ろうとした時、星来がでた。

「どうしたの?」

 電話越しの声が涙声ではなくいつもと同じ声で安心した。どうやら大丈夫そうだ。酔ってかけていることにして適当に電話を切ろう、そう思った。

「夜更かししてんじゃん」
「そっちもじゃん。ご用件は?」
「星来の鞄に俺のスマホない? 家に帰ったらなくってさ」
「えー? どっかで落としたの?」

 星来がガサゴソと鞄の中を探す音が電話越しに聞こえた。俺のスマホは今俺の手の中にあるから探してもきっと見つからないだろう。
 いつもならすぐ気がつくはずなのに今日はなかなか気が付かない様だ。

「どこまであったの? ……って、今私に電話かけてるそれはなんですか?」

 やっと気づいた。

「あははは。気付くの遅いよ」
「冷やかしなら切るよ。バイバイ」
「あぁ! ちょっと待ってよ」

 適当に電話を切るはずが思わず呼び止めてしまった。こうなったら素直に話すことにした。

「何? 本当に用があんの?」
「用ってわけじゃないんだけど、星来が泣いてるんじゃないかなって思ってさ。その様子だと大丈夫そうだね」

 そう言うとさっきまでテンポが良かった会話が急に止まった。星来が黙ってしまった。

「……やっぱり泣いてた?」

 電話越しに鼻をすする音が聞こえた。やはり泣いている様だった。

「……なんで泣いてると思ったの?」

 涙声で星来が言う。
 やっぱり失恋したことにショックを受けている様子だ。

「んー……星来のことをずっと見てたからかな。星来も太陽も鈍いんだよ。俺だって結構気を使ってたんだぞ?」
「どういうこと?」

 しまった。つい口を滑らせてしまった。
 ……もう隠していても仕方がない。俺も覚悟を決めよう。

「星来、ずっと太陽のこと見てただろ? いや、太陽しか見てなかっただろ? 俺だって隣にいたのに」
「……もしかして知ってた?」
「太陽のことが好きだったこと?」
「わー!」

 電話越しから聞こえてるくる星来の大声に思わずスマホを耳から離す。だいぶテンパっている様子だ。

「……いつから知ってたの?」
「うーんと、中ニ? いや、中一の冬かな?」

 星来が慌てているのが電話越しから伝わってくる。

「まぁ、俺以外は気づいてないんじゃないかな? 太陽も含めてさ」
「振られちゃった。まぁ、好きだって伝えてもないんだけどさ」

 星来の声のトーンが下がっている。やはり落ち込んでいる様だった。少しでも励ませたらと思い優しく話しかける。

「言えなかったんだろ? 関係が崩れるんじゃないかと思ってさ」
「うん」

 知ってる。俺もそうだから。

 普段はもっといろんな話をしているはずなのに、どうして「好き」の二文字が言えないのだろう。
 
 星来のことは応援したい。
 でも俺の想いにも気づいて欲しいーーーー。

 きっと俺が想いを伝えてしまうともう「今までの三人」には戻れない。それだったら俺はこのままでいい。

 俺は星来のことが好きだ。

 でも、それと同じくらい太陽のことも好きだ。好きな種類は違えども星来と太陽と三人で過ごした時間を失いたくない。

 この関係が崩れてしまうなら、俺は自分の気持ちを星来を伝えないつもりだった。伝えないつもりだったのにーーーー。

『三橋君も好きな人が他の人が好きだからって諦めるんじゃなくて、ちゃんと想い伝えなよ。想いって言葉にしないと伝わらないから』

 朝田さんの言葉が頭をよぎる。

 想いは言葉にしないと伝わらないーーーー。

「俺もそうだし」
「ん?」
「星来には悪いけど俺は親友の結婚は嬉しいし、チャンスだと思ってる」
「チャンス?」

 ここまで言ってしまえばもう引くことはできない。
 失恋直後の傷ついているこのタイミングで伝えるのはずるいかもしれない。だけどーーーー。

 太陽のことが好きでも、もし……もし少しでもチャンスがあるなら俺にチャンスをくださいーーーー。

「星来を振り向かせるチャンス! お前鈍いんだよ。ずーっと太陽ばっかり見ててさ。俺のこともちょっとは見てくれよ」

「え?」

「……ずっと好きだった。星来の一番になりたい」

 星来がパニックになっているのが伝わって来る。
 とうとう言ってしまった。でも後悔はない。

 朝田さんも俺に想いを伝える時、こんな気持ちだったのだろうかーーーー。
 少しでもチャンスがあるならばと勇気を振り絞って想いを伝えてくれたんだ。

 想いを伝えるのってこんなに怖いんだ。

「本当はずっと言うつもりはなかったし、今日伝えるのも違うかもしれない。だけど、ちょっと考えて欲しい」

 そう言って俺は電話を切った。

 少しだけでいい。ほんの少しだけでいいから俺のことを意識して欲しいーーーー。

 同時に勢いで想いを伝えたことを後悔した。

 あー! もう! 次会う時どんな顔をすればいいのだろう。

 顔が熱い。きっとこれはさっき飲んだ酒のせいだ。酒のせいにしたいーーーー。

 あれだけ飲んできたはずなのに今夜は眠れそうにない。

 次に会う時はお互いどんな顔をしているのだろう。
 この関係は終わってしまうのだろうかーーーー。

 
 星空を眺めながら君のことを想う。