翌日、俺と雨夜は仲介屋の事務所に向かった。
えいれい社からは徒歩3分ほどの場所にある雑居ビルだ。
「こんちわ〜!」「失礼します。」
とそれぞれ挨拶しながら事務所に入る。
「ヤッホー!久しぶり!」
返事をし、事務所の奥から出てきたのはナツキ、ではなくナツキの双子の姉、ミツキだ。
長い髪の毛をひとつにまとめている。
俺の頼れるお姉さん的存在だ。
「初めまして!あたし、ナツキの姉のミツキ。君が雨夜ちゃんね。ナツキから聞いたよ。よろしくね!」
姉弟でこの仲介屋を経営しているのだ。
よろしくお願いします、と雨夜が頭をペコリと下げているのを横目で見つつ、俺はナツキを探した。
「あ、ハツキ!ナツキは今出てるから、いないの。ごめんね。」
ミツキが俺に声をかけた。
ミツキもナツキと同じく俺のことをハツキと呼ぶ。
ミツキも、「ハツキはハツキじゃん!ほぼ一緒だって!」ととりつく島もない。
「リョーカイっす!」
──ナツキが席を外すなんて、珍しいな。何かあったのか?
返事はしつつも心の中はモヤモヤが残った。
「あともう少しで依頼人の方が来られると思う。準備しといて!」
ミツキのハキハキとした声に我に返り、俺たちは依頼人を迎える準備を整えた。
依頼人がいらっしゃったよ、というミツキの声を聞いて俺たちは目を合わせる。
お互い頷き合って仮面を顔につけた。
コンコンコン、とノック音が響く。
「どうぞ。」
俺の声の後、少し間を置いてから扉が開かれた。
入ってきたのはショートカットの女性。
──第一印象は、おしとやか、、かな。
「宮原巴瑠美です。」
短く言い、俺たちの前のソファに座った。
「俺は、、葉月。」「私は雨夜です。」
俺たちはそれぞれ名乗った。
「葉月さんと雨夜さんですね。この度はよろしくお願いします。」
巴瑠美は頭を下げた。
俺たちも揃って頭を下げる。
「早速ですが、こちらが計画案です。」
雨夜が資料を渡した。
巴瑠美は意を決したように喉を鳴らし、目を通した。
──彼女は結婚詐欺に遭ったと聞いた。だが、そんなものに騙されるような人だとは思えねぇんだよな、、。まぁ色々あるんだろ。
内心の疑惑を封じ込め、巴瑠美の回答を待った。
その間、計画内容を反芻する。
ターゲットの男の家を訪問。怪しむだろうが、謝罪と、これからも良い付き合いを続けようという意を込めて酒を渡す。
そこで男の家に潜り込み、泥酔させた後、ベランダから突き落とす。
酒は結構な濃度のアルコールが含まれている。
ターゲットは大の酒好きと聞いている。酒好きでも簡単に泥酔するだろう。
そしてパソコンには遺書を残す。
合鍵を彼女は持っているらしいので、それを使い鍵を閉め、密室を作る。
短くまとめるとこんな感じだ。
ほとんど要が作っていた。
彼はあまりこういう作業は行なっていないのだが、今回は珍しく張り切っていた。
「これで、、やろうと思います。」
全ての資料を目にしてから静かに呟いた。
「わかりました。ですが、俺たちの考えたものは、あくまで計画です。うまくいかなかった時、非常事態が起こった時、速やかに中断してください。別の計画案を出しますので。そして、、もしも警察の手があなたに伸びた時、俺たちのことを口外することがないように、お願いします。」
俺の言葉に巴瑠美の背筋が伸びた。
「はい。わかりました。ありがとうございました。」
巴瑠美はそう言い、深く頭を下げた。
「くれぐれも、お気をつけて。」
事務所を出て行く巴瑠美を見送り、ソファに座り直した。
「ハツキ!ちょっといい?」
ミツキが俺を呼んだ。
俺は無言で頷き、ミツキのそばへ寄る。
雨夜も俺の後をついてくる。
ミツキは真剣な顔で、あることを話した。
「実は、、今ナツキから連絡が来たんだけど、宮原巴瑠美さん、ここに書かれてる住所に住んでないらしいの。」
ミツキが見せてきたのは、巴瑠美が最初に書いたと見られる個人情報の紙だ。
ミツキの言おうとしていることがわかった。
「どういうことですか?」
雨夜は不安そうに、仮面を外しながら聞いた。
「宮原巴瑠美ってやつは、住所を偽装していたってことだ。もしかしたら、宮原っていうのも、偽名かもしれない。」
──この件には、、ある人物が関わってる。
何故か、わからないが、、そう直感した。
「でも、そういうお客さん、たまにいらっしゃるから。影さんに報告してもらえる?」
ミツキの言葉に少し安心したように雨夜が息を吐く。
俺も雨夜に心配をかけないように
「リョーカイ!」
と黒豹の面を外し、笑顔を見せて頷いた。
えいれい社からは徒歩3分ほどの場所にある雑居ビルだ。
「こんちわ〜!」「失礼します。」
とそれぞれ挨拶しながら事務所に入る。
「ヤッホー!久しぶり!」
返事をし、事務所の奥から出てきたのはナツキ、ではなくナツキの双子の姉、ミツキだ。
長い髪の毛をひとつにまとめている。
俺の頼れるお姉さん的存在だ。
「初めまして!あたし、ナツキの姉のミツキ。君が雨夜ちゃんね。ナツキから聞いたよ。よろしくね!」
姉弟でこの仲介屋を経営しているのだ。
よろしくお願いします、と雨夜が頭をペコリと下げているのを横目で見つつ、俺はナツキを探した。
「あ、ハツキ!ナツキは今出てるから、いないの。ごめんね。」
ミツキが俺に声をかけた。
ミツキもナツキと同じく俺のことをハツキと呼ぶ。
ミツキも、「ハツキはハツキじゃん!ほぼ一緒だって!」ととりつく島もない。
「リョーカイっす!」
──ナツキが席を外すなんて、珍しいな。何かあったのか?
返事はしつつも心の中はモヤモヤが残った。
「あともう少しで依頼人の方が来られると思う。準備しといて!」
ミツキのハキハキとした声に我に返り、俺たちは依頼人を迎える準備を整えた。
依頼人がいらっしゃったよ、というミツキの声を聞いて俺たちは目を合わせる。
お互い頷き合って仮面を顔につけた。
コンコンコン、とノック音が響く。
「どうぞ。」
俺の声の後、少し間を置いてから扉が開かれた。
入ってきたのはショートカットの女性。
──第一印象は、おしとやか、、かな。
「宮原巴瑠美です。」
短く言い、俺たちの前のソファに座った。
「俺は、、葉月。」「私は雨夜です。」
俺たちはそれぞれ名乗った。
「葉月さんと雨夜さんですね。この度はよろしくお願いします。」
巴瑠美は頭を下げた。
俺たちも揃って頭を下げる。
「早速ですが、こちらが計画案です。」
雨夜が資料を渡した。
巴瑠美は意を決したように喉を鳴らし、目を通した。
──彼女は結婚詐欺に遭ったと聞いた。だが、そんなものに騙されるような人だとは思えねぇんだよな、、。まぁ色々あるんだろ。
内心の疑惑を封じ込め、巴瑠美の回答を待った。
その間、計画内容を反芻する。
ターゲットの男の家を訪問。怪しむだろうが、謝罪と、これからも良い付き合いを続けようという意を込めて酒を渡す。
そこで男の家に潜り込み、泥酔させた後、ベランダから突き落とす。
酒は結構な濃度のアルコールが含まれている。
ターゲットは大の酒好きと聞いている。酒好きでも簡単に泥酔するだろう。
そしてパソコンには遺書を残す。
合鍵を彼女は持っているらしいので、それを使い鍵を閉め、密室を作る。
短くまとめるとこんな感じだ。
ほとんど要が作っていた。
彼はあまりこういう作業は行なっていないのだが、今回は珍しく張り切っていた。
「これで、、やろうと思います。」
全ての資料を目にしてから静かに呟いた。
「わかりました。ですが、俺たちの考えたものは、あくまで計画です。うまくいかなかった時、非常事態が起こった時、速やかに中断してください。別の計画案を出しますので。そして、、もしも警察の手があなたに伸びた時、俺たちのことを口外することがないように、お願いします。」
俺の言葉に巴瑠美の背筋が伸びた。
「はい。わかりました。ありがとうございました。」
巴瑠美はそう言い、深く頭を下げた。
「くれぐれも、お気をつけて。」
事務所を出て行く巴瑠美を見送り、ソファに座り直した。
「ハツキ!ちょっといい?」
ミツキが俺を呼んだ。
俺は無言で頷き、ミツキのそばへ寄る。
雨夜も俺の後をついてくる。
ミツキは真剣な顔で、あることを話した。
「実は、、今ナツキから連絡が来たんだけど、宮原巴瑠美さん、ここに書かれてる住所に住んでないらしいの。」
ミツキが見せてきたのは、巴瑠美が最初に書いたと見られる個人情報の紙だ。
ミツキの言おうとしていることがわかった。
「どういうことですか?」
雨夜は不安そうに、仮面を外しながら聞いた。
「宮原巴瑠美ってやつは、住所を偽装していたってことだ。もしかしたら、宮原っていうのも、偽名かもしれない。」
──この件には、、ある人物が関わってる。
何故か、わからないが、、そう直感した。
「でも、そういうお客さん、たまにいらっしゃるから。影さんに報告してもらえる?」
ミツキの言葉に少し安心したように雨夜が息を吐く。
俺も雨夜に心配をかけないように
「リョーカイ!」
と黒豹の面を外し、笑顔を見せて頷いた。



