夜明けを示す北極星〔みちしるべ〕

 それから、昼休憩を挟み、また仕事の話をした。
仕事の話が一番大変だった。

普段はネットなどを使って依頼人の悩みの相談に乗る。ということをしている。
本格的な殺しの仕事は月に一回入るくらいだ。依頼が入ってから計画を立て、準備し、実行する。という大変な過程を踏まなければならない。大抵実行するのは依頼者。俺たちは計画を立てるのがメインになっている。
大きい仕事だと、3ヶ月にも及んだこともある。
そして、ごくたまに、俺たちに殺人の代行を依頼する人がいる。
例えば自分の他に家族がいて、警察に捕まるわけにはいかない。などの理由を持つ人たちだ。
警察の手が伸びてこないように万全の準備はする。
だが失敗する時もある。はじめから依頼人には失敗する可能性があることを了承していただいている。
命の危険と隣り合わせな、この仕事。
だから、生きて此処へ帰って来れるように、『失敗してもいい』と影は言っているのだ。
影本人は依頼人のため、というが、俺たちを思ってのことなんだろうと思っている。
いつ死ぬかわからない、俺たちのために、影なりの心意気なんだろう。

仕事の内容は多く、気をつける点も多い。
覚えることもたくさんあり、教えることもたくさんある。
雨夜にうまく説明できたのか不安だ。

「最後に、俺らは体力作りっていうのかな、武芸の稽古がある。週に3回、隣の道場で。」
「そうなんですね、、。」
 少し心配そうに言った。
「大丈夫!鈴さんが教えてくれるよ。俺マジで弱いから」
「なに言ってんのよ!あんたが1番強いわよ!」
 俺の言葉を鈴が遮るように叫んだ。
「へ?」
 俺は思わず抜けた声を出す。
「へ?じゃないわよ!あんたが1っ番強いっつてんのよ!」
「だ、だって俺、いつも要さんとかとやったら途中で止められるし。」
「あれはあんたが強すぎて要っちが殺されちゃうからでしょうが、、。」
これだから無自覚は、、と鈴はため息をついた。
「影さん、褒めてたわよ。オリンピックに『戦い』の種目があれば金メダルなんじゃないですか?ってね。」
「そ、そうなんすか?」
 思ってもみなかったことに驚きを隠せない。
だが、強い、と言われても悪くないかも、と思っている自分がいる。

──確かに、俺と当たった人、何かしら怪我してたような、、。

「葉月って、自分に自信ないのがダメなの。いつも俺はダメ。俺はうまくできないって思ってる。でも、周りから見れば、頑張り屋で何事も最後はうまきやってのける。ほんと、自分に自信なさすぎなのよね。」
「そうなんですか?そういう風には見えなかったんですけど。」
「あら?雨夜にはそう見せないように頑張ってるのかしら?、、このタイミングで雨夜が入ってくれてよかったのかもしれないわね。今まで葉月は1番の後輩だったから。初の後輩が出来て、先輩の立場になって変わるのかもしれないわ。」
 鈴の表情は期待で満ちていた。
「葉月さんなら、、大丈夫です。」
 雨夜がはっきり呟いた。
鈴は少し驚いた様子だったが、そうね、と頷いた。

俺は2人がその時何を話していたのか聞こえていなかった。