夜明けを示す北極星〔みちしるべ〕

「あぁ〜、、緊張する〜、、。」
 俺は頭を抱え呟く。
手を見ると小刻みに震えている。

「初稀くん!」
 夜雨の明るい声が聴こえた。
「よ、夜雨!」
 慌てて俺は振り返る。
「もう!もうすぐ本番なのに、なんでまだ灯台にいるわけ?探したんだよ?」
 腕を組み、困った子だ、とでも言いたそうに微笑んでいる。
「だって、、緊張するだろ?」
 弱々しく言い訳する。
「でも、初めてじゃないんだから。演奏会。大丈夫だって!」

 そう、今、あのコンサートホールでヴァイオリンの演奏会が行われている真っ最中。
俺もそこで演奏することになってるのだ。
 演奏会に出るのは、、あの時が最後だと思ったけど、父さんの、『ステージに立つお前をまた見たい。』という言葉に勇気をもらい、また立つことに決めたのだった。

「で、でも、子供の頃のことだぜ?」
 まだ緊張している俺に夜雨は
「大丈夫、私が聴いてるから。」
 安心させるように俺の手を取り撫でた。
「それに、天の上ではおかあさんと、おにいさんが聴いてるでしょ?」

──俺を、安心させる、夜雨の笑顔。やっぱり、夜雨の笑顔は、、俺の道しるべだ。暗闇の中明るく輝く、道しるべ。

「俺、、祈りのために、弾いてるのは変わりねぇんだけど、前よりもっと、演奏するのが楽しい、って思えるんだ。今日も、、祈りながら、、楽しんで、弾くことにする。」
 俺は真っ直ぐ夜雨に視線を向けた。
「うん!」
 夜雨が嬉しそうに目を細めた。
「行こうか。」
 俺はそのまま夜雨と手を繋ぎ歩き出す。

◇◇◇

 俺の名前が呼ばれた。

──母さん、兄貴、俺は父さんと、夜雨と生きていきます。だから、、見守っていて。

 心の中でそう祈る。
「初稀くん、頑張って!」
 夜雨の声を背中で聴き、俺は母さんのヴァイオリンとともにステージに向かって歩き出す。
会場は、大きな拍手の音で包まれていた。




──了