夜明けを示す北極星〔みちしるべ〕

「えっと、、この会社の掟は知ってる?」
 俺は雨夜にそう訊いた。
「はい、1 この会社の情報を社外に漏らさない。2 ターゲットは依頼人の要望する方のみ。3 失敗してもいい。絶対に生きて帰ること。の3つです。」
 細くて小さな指を3本立てて言った。
「そう、これは守って。絶対に。」
 少し語尾を強くした。
影や要から口酸っぱく言われている。
「わかりました。」
 表情を固くして頷いた。

この会社は2階が表の会社、工場で働く人たちの事務室になっている。
2階部分が隣のビルと繋がっておりそれが本社である工場だ。
「3階フロアについて説明する。今の部屋が事務室。で、隣が社長室。いつも影がいるところ。その隣が会議室兼応接室。俺らが会議する時、または依頼人や客が来た時の対応をする部屋。まぁ、依頼人は仲介屋っていうやつがいるから、その事務所に俺らが行くってことが多い。ちなみに仲介屋の事務所は此処から5分もかからねぇよ。この向かい側はトイレとエレベーターと階段な、、ん?」
 雨夜の目が少し揺れた。
何か疑問でもあるのか、と雨夜の次の言葉を待った。
だが、
「えっと、、。」
 と雨夜は口ごもった。

──言いにくいのだろうか。案外シャイな子なのかも。みんなの前ではあんな大口叩いてたのに、、

 そう思っていると雨夜が口を開いた。
「葉月さんは、鈴さんと要さんはさん付けで、影さんはさん付けじゃないんですか?もしかして、お知り合いなんですか?」
 不思議そうな顔で訊いてきた。
そのことか、と内心頷き、こう返す。
「この会社に入った時なんだけど、、要とか鈴って名前っぽいじゃん?でも『シャドウ』ってあだ名っぽいって感じて、あだ名な感じでさんをつけずに呼んだんだ。そしたら、要さんと鈴さんが大慌て。影はそれを見て大笑いしてさ。それで影のままで定着したんだ。」
 昔の俺馬鹿だろ、と雨夜に笑いかけた。
つられて雨夜も目を細めた。
「確かに、、。要っちさんっておかしいですもんね。」
「そうそう、そんな感覚。一応コードネームだったんだけど。」

 今の会話で少し雨夜の表情が明るくなった。
「話戻るけど、、会議室の隣が資料室。昔の事件の資料とか仕事に使う道具が置いてある。」
 俺と雨夜は資料室の前に着いた。
「此処は、、誰でも、いつでも、入れるんですか?」
 雨夜が食い気味に訊く。
「え、、?う、うん、まぁ。あとで鍵は渡すけど。俺たち社員なら自由に見れるし。ただし部屋からの持ち出し、コピーは禁止。中にコンピュータがあるから、それも自由に使える。」
「なるほど、、。」
 雨夜は何やら考えるような素振りをし、何度も頷いていた。

──どうして、、雨夜はこんなに興味を抱いているにだろうか。

「ッ!?雨夜?」
 俺は思わず雨夜の両肩を掴んだ。
「は、はい!?」
雨夜が驚いたように声を上げた。

──気のせい、、か、、。

「ご、ごめん、、なんでもない。」
 俺は咄嗟に誤魔化した。
さっき雨夜は、今までの覚悟を決めたような目ではなく、冷たくて、怖くて、哀しい目をした。
ように見えた。
だから咄嗟に、引き戻したくて、思わず肩を掴んでしまった。
でも、掴んだあとは、何事もなかったようにとても綺麗な目をしていた。