「依頼人は坂本咲希さん。夫の坂本健次郎という男を殺して欲しいとのご要望です。」

──え？

雨夜の目がとても怖く見えた。
思わず声が出ていたようで要に睨まれた。
声をあげるのははばかられ、横目で雨夜を見つめる。

──あれ？いつも通りの綺麗な目だ。様子もいつも通り、、。さっきのは、、見間違い？いや、、。

「おい！葉月！ちゃんと聞いてるのか？」
　要の声が響いた。
と同時にペンを胸元から取り出す。

──ヤベェ、、。ムカついてる、、。

「すんません、、。」
　俺は慌てて頭を下げる。
要はそんな俺を見て、ふん、と鼻息をたて、腕を組んだ。
「それで、、坂本咲希は俺らにどうしろと？」
　要が影に尋ねる。

──ということは、、俺らがやるのか。で、計画というか筋は咲希が提示しているというわけか。

瞬時に遅れていた情報を汲み取り、影の話の続きを待った。

「それが、、。危険な方法なんですが、、。」
　と影は坂本咲希が提示した内容を語り出した。
「咲希さんは健次郎に浮気をされているそうです。まだ小学生の息子がいるそうで、それが動機です。そして、計画ですが、まず健次郎に薬を飲ませ、入院させてそこで離婚を言い渡す。そして、、」
「ちょっと待ってくれ！」
　要が口を挟む。
意味がわからないようだ。
俺も正直わかっていない。

「入院ってどういうことだ？あと、、離婚を言い渡すとは？」
「咲希さんたっての希望です。愛人を健次郎自らの手で捨てさせたいのだとか。、、咲希さんは健次郎の勤める会社のご令嬢だそうで。もし、咲希さんと愛人、どちらかを選ばなければならないとなった時、絶対に咲希さんを選びます。そして、安心したと思った途端に、離婚という絶望をくらわせたいのだとか。」
「どうして、そんなことがわかるんだ？」
「健次郎という男は、遊びの愛よりも、自己保身、自らの地位を守る男だそうです。」
　影が淡々と喋る。
思わず背筋が伸びる。
こういう時、影を怒らせてはいけないと思う。

「だが、離婚をするなら、、やる必要、、あるんだな、、。」
　急に声を小さくして引き下がった。
影の全身から出る怒りのオーラに要が負けた。
「離婚するだけじゃ、怒りはおさまらないものなのよ。」
　鈴が1人ぼやいた。
影の説明は続いた。
「そして、退院した後、殺して欲しいそうです。殺し方は何でも良いそうですが自殺に見せかける方が良いのではとおっしゃっています。」
「どうして？」

「健次郎は浮気が発覚すると同時に地位を失うことになります。そして、、交通事故で人を殺しています。」
　影の言葉と同時にグシャッと紙を握る音が聞こえた。
雨夜だった。
雨夜が資料を握りしめたのだ。
「、、雨夜？」
　迷ったが声をかけた。
「あ！、、すみません。」
　声をかけられ、紙をグシャグシャにしたのに気づいたようだ。
しわのよった紙を元に戻そうとのばした。
「どうした？」
「なんでもない。、、続けてください。」
　俺の声を軽くあしらう。
心配したのに、冷たい肩すかしをくらった。

影は黙って頷き、
「今回は、雨夜、葉月に担当してもらいます。お願いします。」
　俺たちに声ををかけた。
「「はい。」」
　俺と雨夜は声を揃えて返事した。